【第160回】 可動関節
合気道は技の稽古を通して道を進むものであるが、技が上達するためには体の機能も上げていかなければならないだろう。体が硬かったり、手足が十分に動かなければ、技も上手く遣えるはずがない。
技を掛けるとき、初心者はどうしても、体の末端の手先を遣いがちであるが、手先ではそれほどの力が出せないので、技は決まらないことになる。技は体のすべての部位を効率よく、そして連動して使わなければ上手くできない。
体の重要な部位には、関節とそれに係わる筋肉がある。特に、動く関節である可動関節を上手く遣わなければ技は効かないものである。
また、体に痛みを感じたり、動きが鈍くなる大きな原因には、関節の機能低下と関節可動領域の縮小、そして可動関節に関係ある筋肉の硬化や退化にあるようだ。今回はこの可動関節について研究したいと思う。
可動関節とは肩、肘、膝などの動く関節である。この内、合気道に関係のある、またその内の重要と思われる幾つかの可動関節を取り上げて考えてみたいと思う。尚、可動関節は、専門的には蝶番関節とか螺旋関節、腕尺関節とか指節間関節という名称で使われるが、分かり難いし覚え難いので、一般的な名称である頚、肩甲骨などを遣うことにする。
- 頚(くび):
頚は前後左右に屈曲し、回旋する。この屈曲と回旋の可動範囲を広げることと、頚を遣うことによって頚を強くすることが大事である。かつては頚を絞めたり、頭を抑えたり、髪の毛を掴むような取り(攻撃)に対する技の稽古があったし、また、技としても頚を捻って投げる稽古などを頻繁にやっていたので、頚は相当に鍛えられた。しかし、最近は頚の鍛錬の稽古をほとんどやられなくなったようだ。
今の稽古で頚を鍛えるのは、受身と準備体操での頚運動であろう。受身をとるときは、顎(あご)をしっかり引かなければ頭を打ってしまうので、受身をきちんと取っていれば、頚もがっしり固まってくる。
この固まった首の可動範囲を広げるには、頚の前後と左右への屈曲運動とぐるっと回す回旋運動であろう。可動範囲を少しでも大きくすべく、意識してゆっくり、そして大きく行なうが、このとき大事なのは、息を吐きながらではなく、息を吸いながら(吸気)やることである。息を吐いてやると、頚は硬くなって、可動範囲は広がらない。
また、もう少し頚を鍛えたければ、ブリッジで鍛えるのもよい。特に頚の後面の項(うなじ)は、体の表となるので重要である。
頚がしっかりし、この可動関節の可動範囲が広がれば、頭で技を掛けられるようになるはずだ。
- 肩甲骨:
肩甲骨は、上下に上げ下げできるし、内外にも回旋する。この肩甲骨を動かすことによって、下記の肩関節の位置や向きが変えられることになり、頭上に手を上げる運動が容易になる。剣を振り上げたり、手を上げるときは、この肩甲骨を十分に上げ、そして外旋して、可動関節の可動範囲を広げるようにするといい。これによって肩が貫け、肩関節に負担をかけずに腕が遣えるようになる。
肩甲骨に十分な可動性がないと、肩が引っかかってしまい、肩関節に負担をかけることになり、肩を痛める事になる。呼吸法や天地投げで上げる手は、肩甲骨の十分な可動性がないと、相手に抑えられてしまい、相手を無力にすることは出来ない。呼吸投げで相手を投げるときや、二教裏で手首を決めるときなども、この肩甲骨の外転と内転が重要になる。
体幹と上肢を唯一連結する胸鎖関節と共に、少しでも肩甲骨の可動範囲を広げ、肩関節が自由に動くようにしたいものだ。
- 肩関節:
肩関節はその形から球関節に分類され、上下の屈曲と後方への伸展、水平屈曲と水平伸展、側面の外転と内転、内旋と外旋の組み合わせによる運動を行なうとされる。しかし、肩関節の球関節を支えているところはきわめて浅い。これが上肢の自由な運動を確保するのであるが、その反面、肩関節の周りを筋や靭帯が包んでいるにすぎないので、著しく不安定な関節であり、脱臼などが起き易い。(「人体解剖ビジュアル」)
肩関節の可動範囲を広げるためには、手を前から上に十分上げて屈筋を働かせ、次にその手を下から後方に上げて肩関節を伸展させ、さらに肩の高さで腕を水平に伸ばして手を向かい合わせにし、肩より前と後に広げたり寄せたりする。あるいは、腕を肩を中心に下から上に、上から下に回し、さらに真横に伸ばして小さい円を描く。また、腕を肘から曲げたまま、肘を中心にして外側と内側に回す(内旋と外旋)運動もよい。準備運動でこれらの動きを念入りにすれば肩関節はスムースに動き易くなる。
合気道の稽古では、一教の腕おさえの受けで肩関節の屈筋の伸展、二教や三教の抑えで外旋、四方投げや呼吸法で水平屈曲と水平伸展、呼吸法や呼吸投げで投げ飛ばす場合など、ほとんどで側面の外転と内転を遣うし、二教で相手の手首を決めるときは、肘のところで曲った状態の腕遣いで、肩関節の内旋と外旋を遣っている。従って、合気道の稽古をしっかりやれば、肩関節はしっかりし、そして可動範囲も増すことになるはずである。
- 肘関節:
肘関節とは、上腕骨と前腕骨との間にある関節である。表面的には肘関節は主に肘の曲げ伸ばし(屈曲・伸展)に働くため、単純な関節と考えがちだが、実際には前腕の回内・回外を含めた複雑な運動に係わっており、手の向きを変える主要な関節である。(「人体解剖ビジュアル」)
合気道の稽古では、肘を上手く遣わないと技は決まらないものである。技は手からではなく、肘から掛けていかなければならないともいわれている。また肘は鍛えないと肘で折れ曲がってしまい、そこで力が滞ってしまうので、手先にまで力が伝達されないことになる。
手先よりも肘から先に動かし、肘を十分伸展・屈曲させて可動範囲と加重能力を高めていかなければならない。
肘を鍛える技としては、片手取りの「隅落とし」が典型的な技であるが、最適なのは諸手取り呼吸法であろう。諸手取り呼吸法が出来るようになれば、肘も鍛えられたことになろう。その他に、四方投げでも、一教、二教や入身投げでも、肘の屈曲と伸展を遣ってやれば肘の鍛錬になる。肘を伸展させる典型的な鍛錬技は、「肘決め」であろう。お互いに注意しながら、極限より紙一重上でやるように鍛えていけば、頑強になるし可動範囲が拡大される。
- 前腕:
前腕(小手)の可動関節としての働きは、いわゆる「手の平を返す」ところの内旋(手掌を下に向ける)と外旋(手掌を上に向ける)である。合気道で技を掛ける場合の手は、反転々々と体と同調して旋回しなければならないが、片手取りの四方投げ、呼吸法、小手返し、回転投げ、また後両手取りの技で前腕の内旋と外旋で可動範囲を大きくするとよい。前腕の内旋・外旋をする場合は、前腕だけを返しても上手くいかない。手を腹と結び、体の中心線上に置き、手を先に動かさずに、まず体を動かすことがポイントである。
この他、武道に重要と思われる可動関節として体幹部(前屈:屈曲と後屈:後屈)、股関節(内旋、外旋、外転、屈曲、伸展)、膝関節(屈曲、伸展)、足関節(屈曲:底屈と伸展:背屈、内旋と外旋、内転と外転)等々あるが、分量の関係で残りは別の機会にする。
稽古は、これらの可動関節の可動領域を拡大することでもあろう。可動領域が大きければ大きいほど、しっかりした大きな動きが自由に出来るようになるはずである。
可動関節の可動領域を拡大したり、可動関節が十分機能するためには、それに係わる筋肉も可動範囲を拡大し、伸び縮みが自由で強靭でなければならない。つまり、可動関節と筋肉は一対になっており、どちらか片方が十分に機能しなければ、可動関節の機能はそのレベルしかないことになる。可動関節とそれに関わる筋肉を一対で鍛えなければならないだろう。
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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