【第16回】 動と静

合気道の稽古の方法は場所にもよるし、先生によっても違ってくる。初心者と高段者でも違ってくる。若い初心者はメいっぱい動かないと満足できないし、それによって体ができてくるので、速く、激しく、動的に動くのがいいことである。
しかし、ある程度身体ができ、より深い合気道を追求するならば、合気道の技の稽古はゆっくり、正確にそして静かにやるのがいい。はじめから崩して速く動くと技が身につかないし、本当の合気道の筋肉もつかないのである。

合気道には、速いとか遅いとかいうことがないとされている。つまり、「合気道の極意は、己れの邪気をはらい己れを宇宙の動きと調和させ、己れを宇宙そのものと一致させることにある。そこには、速いとか遅いとかいう、時間の長さが存在しないのである。この時間を超越した速さを正勝・吾勝・勝速日という。」(合気真髄)

二人で稽古をしているときでも、相手を合気し、相手と結んでしまえば相手は崩れているので、あとは相手が倒れるだけであるから、速くやる必要はない。速く投げたり、倒したりするより、倒すまでのプロセスを大事にしたほうがいい。相手が無理なく、気持ちよく倒れるよう、相手とのムスビを解かないよう、接点を動かさないよう、接点に十分気を入れ、自分の身体の動きや働きを意識しながら静かに、しかし気を満たして行うのがいいだろう。
この静の動きには、いつでも速く激しい動きに変えることができるエネルギーが内在するわけである。その極端な動きはお能である。静かであるが無駄が無く、全身に気が充満している、動を秘めた動きである。
中国の太極拳なども静の動きで稽古するが、合気道も静の動きで動の稽古をする武道であろう。