【第153回】 一霊四魂三元八力

「合気道とは和合の道であり、即ち一霊四魂三元八力の生ける姿、宇宙経綸の姿、即ち高天原の姿である」といわれる。そしてまた「一霊四魂三元八力や呼吸、合気の理解なくして合気道を稽古しても合気道の本当の力は出てこないだろう。」とも言われ、「一霊四魂三元八力」を理解し、身につけることは合気道を修行するものにとって必須のことでもあるようだ。

まず文献を見てみると、古神道では『天上から下された四魂を一霊が統括して人体に宿り、霊止(ひと)になるという。四魂とは、荒魂・和魂・幸魂・奇魂である』。 また、明治時代の神道家である本田親徳(ほんだちかあつ)は、『霊には力無く、力には霊無し。霊、力相応じて、而して神と為り物と為るを得る也。』という。本田親徳の古神道霊学では、万物の生成は「霊」、「力」、「体」の三大要素によって起こるとしている。そして、「体」として剛体、柔体、流体の3つを挙げ、これを三元とし、そして「力」として動、静、引、弛、凝、解、分、合の八つを挙げ、これを八力としている。

本田親徳は、出口王仁三郎の霊学の師匠の師匠という立場にある人といわれ、開祖は出口王仁三郎から霊的、精神的ことを学んだとされるので、開祖も本田親徳から間接的に影響を受けられたと考えられる。

この「一霊四魂三元八力」を如何に合気道の稽古にむすびつけるか、そして本当の力がでるようにするにはどうすればいいのかを研究しなければならない。

まず「一霊四魂」であるが、人間の心は四つの魂、四魂(荒魂、和魂、幸魂、奇魂)からできていて、この四魂を一つの霊、直霊(なおひ)が統括するとされる。「荒魂には勇、和魂には親、幸魂には愛、奇魂には智というそれぞれの魂の機能があり、それらを、直霊(なおひ)がコントロールしている。簡単に言えば、勇は前に進む力、親は人と親しく交わる力、愛は人を愛し育てる力、智は物事を観察し分析し、悟る力である。」(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

「直霊(なおひ)の機能を一語で表すと『省』(かえりみる)で、自分の行動の良し悪しを省みることで、四魂を磨いていく働きをする。直霊はものごとの善悪を判断して、人を誤らせないように導き、もしも誤ってしまった場合は、それらを反省し、自らを責め、悔い改めようとする。またこの直霊だけが、直接『天』につながり、四つの魂をコントロールすることで四つの魂を磨くという働きをする。」と言う。(出典:同上)

つまり、「天」の声を直霊で聴き、四魂がこれでいいのかを常に省み、四魂を磨いていかなければならないということだろう。従って、合気道の稽古においても、常にこれでいいのかと省みながら、精進しなければならないことになる。

次に、三元八力の三元である。一霊四魂は「霊」であり、それだけでは力はない。力を出すためには一霊四魂が「体」と相応じて働かなければならない。開祖はこれを、「人間は霊ばかりでは駄目で、肉体がなければ働けません。また肉体ばかりでは本当に働けません。肉と霊とが両々相まって働く時、真実の働きが出るのであります。」と言われている。(「武産合気」)

三元とは流(りゅう)、柔(じゅう)、剛(ごう)のことであるという。流体、柔体、固体である。(これに開祖は「気」を加えるが、複雑になるのでここでは省く)人間の体で言えば、流体は血液、リンパ液、体液などである。柔体は内臓や筋肉であり、固体は骨ということになろう。これらの体に霊(意識)を入れて体を練磨するわけである。流体はより流れるよう、柔体はより柔らかく、固体はより強固にするわけである。

三元がととのうと宇宙全体が出来上がるということは、身体が出来上がるということになるだろう。なぜならば、開祖は常々宇宙と身体は同じであると言われているし、一般に身体を小宇宙とも呼んでいる。身体ができるためにはそのための鍛錬が必要であり、剛、柔、流、そして気の身体をつくる稽古をしなければならないことになる。晩年の開祖は気の稽古に専念されておられたが、我々稽古人が気形の稽古などしようものなら怒鳴られた。まずは剛の稽古をして剛の身体をつくれ、ということだったのである。しっかりした剛健な身体ができたら、その剛の身体を柔らかくし、剛で柔軟な体にならなければならないということだったのだろう。 八力とは、動、静、引、弛、凝、解、分、合の八つの力である。これらの力は動と静、引と弛、凝と解、分と合と対照的である。つまり八力とは対照力、対照力の総称ということができるだろう。三元の流体、柔体、固体に八力が相応じて、固体はただ固いだけでなく、柔らかくなる等の対照力をもち、合気の養成である引力が働くようになり、結びが出来ることになるだろう。

一霊四魂三元八力が整って身につけば大きな合気の力がでるはずである。弛まず練磨するしかない。

参考文献:
 『武産合気』
 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
 『古事記と植芝盛平』(清水豊)