【第149回】 免疫力

人は生まれたときから年を取り始め、死へ向かって進み始める。人は誰でも年を取る。不老長寿の薬を探させた中国の秦の始皇帝や、一代の栄華を誇った豊臣秀吉を例に挙げるまでもなく、人は永遠に生きることへの願望をもち、それが不可能なら少しでも長く生きしたいと思っている。今では、日本人男性の平均寿命は約80才、女性が86才で、100才以上の方が36,000人以上もいるという。人間の本来の寿命ともいわれる125才へどんどん近づいてきている。

長生きも大事だが、長生きするにしても、健康で元気で長生きしたいものである。だが、年を取ってくると、誰でもガタがくる。ガタの程度の差と、それが進む遅速の差があるだけだ。

ガタにはいろいろあるが、その内の一つに「免疫力」の低下がある。風邪を引いたときなどの菌に対する抵抗力である。「免疫とは、自分自身(自己)と異物(非自己)を区別し、異物を排除しようとするはたらきである。」という。(「ニュートン」 2009.3月号) 免疫力が低下すれば、ちょっとした菌や異物に犯されやすくなり、病気になったり、死を早めることになるので、免疫力の低下を出来るだけ食い止めるようにしなければならない。

「免疫力」低下の最大の要因は、年を取ること(加齢)であるそうだ。何故、年を取ることに伴って「免疫力」が低下するかというと、一つには、胸腺の縮小であるという。胸腺(図)は10才ごろが最大で、その後は年とともに減少して、40才ではピーク時の約10%に減少し、70才頃にはほとんど消滅してしまうという。

二つ目は、免疫細胞数の減少にあるという。免疫細胞が減少することで、異物を攻撃する能力が低下することになる。三つ目は、皮膚の水分量の減少である。皮膚の表面にある細胞の間にある水分の量が減り、スカスカになった細胞間に外界からの異物が侵入しやすくなり、免疫の機能を低下させるという。

それでは、「免疫力」を下げない、または高めるためにはどうすればいいかを考えなければならないだろう。いろいろな方法があるだろうが、合気道の稽古との関係で考えてみたいと思う。

東京理科大学の安部良教授は、「免疫力を高めるには、口呼吸より鼻呼吸のほうがよい。外の空気が気管に入るまでに、鼻呼吸のほうが鼻毛や粘膜などをそなえた空間を長く通過するので、口呼吸より免疫の仕組みを格段に有効に使うことができる。」という。合気道の稽古でも、免疫力を高めたいと思えば、息は鼻からしなければならないことになる。口でハーハー息をするようでは、免疫力がつかず、早くガタがくることになる。もちろん鼻で息をするのは、武道の世界では常識であるだろうから、とりわけどうということはないだろうが、一度、免疫力という観点から、鼻からの息遣いを見直してみるのもよいだろう。

次に、適度の運動を定期的にすれば、免疫細胞の活性が上がり、免疫力を高める効果があるということが、実験で確認されているという。合気道の稽古は試合もないし、勝負ではないので、適度な運動にもなるから、定期的に道場に通って、稽古をすればいいことになる。

運動が終了すれば、免疫力の活性は下がるが、定期的に運動することによって平常時の活性も徐々に上がってくるという。また、運動で体力がついて血液の循環がよくなれば、免疫の向上へ繋がるとも言う。

この意味で、合気道の稽古を定期的に、適度に継続してやるのは、免疫力を高めることになることになるだろう。年を取って高齢になっても、合気道の稽古を適度に続けて、免疫力を高め、ガタのくるのを少しでも遅くしたいものである。

参考文献及び図  「免疫力が落ちていませんか?」(Newton 2009/03)