【第142回】 技を上手く遣うために

合気道には一教から五教、四方投げ、小手返し、入身投げ等々の技がある。これらの技を上手く遣うためには、その技を繰り返し々々練習しなければならないが、どうも技を繰り返すだけでは十分ではないようである。

技を上手く遣うために、多くの武道や武術ではそれに適した特殊の稽古法がある。例えば、相撲では、四股、鉄砲、すり足等の基本動作がある。これが十分満足にできないと、四十八手の技は遣えないはずである。合気道でも、転換法や「呼吸法」という稽古法がある。合気道の技は転換法や呼吸法の出来る程度にしかできないと言われている。

転換法には、逆半身片手取り転換法での表と裏(180度転換と360度転換がある)が一般的である。この転換法によって、自分の体と心が、相手の手や力に捉われることなく、体と気持ち(心、精神)の転換ができるようになる。また、折れない手で自分の腰腹と結び、腰腹の力で手を螺旋に遣い、相手を巻き込んでしまうという感覚が身につく。

呼吸法には、諸手取り呼吸法、片手取り呼吸法、座技呼吸法、二人掛・三人掛け呼吸法などがある。呼吸法は技ではなく、相手を倒したり、投げたりするのが目的ではない。名前が示すように、合気道の真髄でもある呼吸力の養成が目的である。従って、呼吸、呼吸力が何なのか考えずに稽古しても、目的なく稽古する事になって、稽古の意味が半減するだろう。呼吸法によって折れない手が作られ、その手を動かすのではなく、体の中心からの力で螺旋に遣うことを覚えるのがよい。

このように転換法や呼吸法は、合気道の技を掛けるに当たって必要な体の遣い方、動きを体得するために重要な基本動作の稽古法である。しかし、技を上手く遣うためには、もっといろいろな稽古をする必要があるだろう。例えば、転換法や呼吸法の基本動作が上手くできるための、そのためのベースになる稽古である。股割り、伸脚、歩行、息づかい等の肉体的な稽古の他に、美的センス、価値観、世界観、宇宙観等の精神面も養わなければならないだろう。

上手くなるためには何が必要なのかは、人によって違うし、その人のいるレベルによっても変わるだろう。相対稽古で技を掛け、上手く行かなければ、技だけに捉われるのではなく、何が駄目なのか、何をすればいいのかを考え、そのソリューションを見つけ、稽古をすることではないだろうか。

技はただ繰り返して稽古するだけでは限界がある。技を上手く遣うための基本動作の稽古や修行もしていかなければならない。