【第139回】 手刀(しゅとう)・小指球・拇指球

合気道の技は主に手を遣ってかけるが、手をただ遣えばいいということではない。手も体遣い同様に、「わざ」とも言える微妙な遣い方がある。「手」とは腕の先にある、手首から先の部位であるが、武道的な分け方をすれば、手は五本の指、手の平、手の甲、手首などで構成されるといえる。さらに、手のひらの中に、手刀、小指球、拇指球等がある。

技を掛けるとき、腰腹の力を手先に集めるが、技によって力を集中する手の部位は少しずつ違ってくる。多くの場合は、薬指、小指、親指を締めるが、相手が打つ手や突く手を捌くには、手の下の部分になる「手刀」(しゅとう)及びそこと繋がる小指球(小指の根元付近)と拇指球(親指の付け根)が重要になる。(写真) 「手刀」とは、手のひらの下方、手首の少し上で、少し硬くなっている部分のところである。

「手刀」(以後、小指球、拇指球を含む)を鍛えるには、そこを遣う、または遣わなければ出来難い技などを、繰り返し稽古すればいい。「手刀」がしっかりして、腹腰からの力がそこに集まるようになれば、技が其れなりに利いてくるので、技の効き方によって、どれだけ「手刀」が鍛錬されたか分かるはずである。

まず、「片手取り転換法」がいい。手を返しながら「手刀」に力を集中し、転換しながら手の甲を相手の手にくっつけてしまう稽古である。「手刀」が弱いと、くっ付けることができない。

尚、「手刀」がしっかりしてくると、相手が手首を持って来なくとも、相手の手や腕先に「手刀」触れただけで、持たせたときと同じように、相手をくっつけたまま自由にしてしまうことができる。

次は、「横面打ち」の手捌きの稽古である。相手が打ってくる横面を捌くのだが、自分の手を相手の手腕にぶつけるのではなく、まず自分の手を刀と考え、刃筋を立てて切り押さえ、触れたところから親指を支点にして、手の甲が見えるまで小指を返し、そして打ってきた相手の手腕を摩擦連動しながら崩し、一体化する。「横面打ち」は、しっかりした「手刀」を腹腰で連動して遣えないとうまく捌けず、打ってくる相手の手を叩いたり、弾いてしまい、合気道とは違ったものになってしまう。

三つ目は、「座技呼吸法」である。毎回やっているにもかかわらず、この「座技呼吸法」が中々上手くできないものだが、その原因のひとつは「手刀」にある。「手刀」が弱いから、折角の力が戻ってしまい、相手に力が伝わらず相手と一体化できないのである。右に振るときは右手の「手刀」、左のときは左手の「手刀」をしっかり張って、「手刀」で相手を吸収し、浮き上がらせて押さえる。

もちろん、この他の合気道の技や動きでも「手刀」は遣うし、オーバーに言えば、すべての技で大なり小なり「手刀」は遣っているはずである。一教、四方投げ、入身投げでも手刀を上手く遣わなければ技は決まり難い。従って、いかなる技の稽古をしても「手刀」の鍛錬はできるはずなので、意識した稽古をすれば「手刀」は鍛えられるはずである。それがまだ難しければ、前述の3つの稽古でそのコツを掴むのがいいだろう。