【第128回】 武道センス 〜 危険を避ける

合気道は武道である。武道の基本には、「生きのびる」ということがある。命を失わないために、術を学ぶとともに、危険を避けるという感覚をも身に着けることである。これは、昔も今も変わらないはずである。

街中では、武道的に見ると危険なことを平気でしている人たちを沢山見かける。左右を確認しないで飛び出す人や自転車、歩道を飛ばして走ったり、無灯火で走る自転車、混雑している階段を駆け下りる人、駅のホームの端を歩く人等々である。自分の危険と他人に対する危険の感覚が欠如しているのである。

街中だけではなく、道場稽古でも「危険を避ける」という「武道センス」に欠けた稽古をする人を見かける。武道センスが欠けていれば、武道としての稽古ができないわけだから、あるレベルからの上達はないといってよいだろう。

合気道には試合がないし、攻撃側と防御側の取りと受けが決まっていることから、受けの方は攻撃をしたら、後は受けだけ取っていればよいよいと考えているようだ。技をかける方は、受け側が途中で攻撃してくることなど考えないし、また受けの方も、受けは取るだけだと考えていて、相手に隙があっても攻撃をしようなどとは考えない。

だが、武道であるからには、受けを取る方は最後の最後まで、相手に隙があればいつでも攻撃できるような心構えと態勢を整えていなければならない。受けを取りながら、気持ちを自分の体と相手の動きに集中し、「ここでは返せるな」とか「ここでは打てるな」などと隙を見つけていくのである。技を掛ける取りの方も、受けている相手に攻撃されないよう、隙を作らないようしなければならない。取りと受けの双方が緊張することによって、よい稽古ができ、そして上達し合うのである。

道場稽古でよく見かける「危険」としては、まず「相手の正面に立つ」ことが挙げられる。相手の正面に立てば、相手に殴られたり、蹴られたりしてしまうのだから、危険である。同じように、技を掛けるときに相手の前に入っていくのも危険である。典型的な技は、片手取り四方投げである。相手の前、正確に言うと、相手の領域、相手の円の中に侵入するので、相手に空いている他方の手で叩かれることになる。

また、「間合いが近すぎる」という危険も見られる。近すぎれば相手にやすやすと殴られたり、蹴られたりする。実際にやってこなくとも、相手の気持ちは攻撃しているはずであるから、こちらの技は後手になって、効かないことにもなる。

次に、技を掛けている方が相手が持っている手や接触している部位を離してしまうことである。相手を制している接点がなくなるということは、相手の手や体が自由になるわけだから、相手を生かすことになり、自由になった手で顔面を打たれたり、突かれたり、蹴られたりする危険ができてしまう。相手とは自分の体のどこかが常に繋がり、最後まで切らないように動かなければ、技が効かないだけではなく、危険である。

接点が切れると危険ということが最も分かり易い技は、「後両手取り」(写真)である。後から持たれた手を上げるとき相手の手が離れれば、離されたその手で自分の首を絞められてしまうことになる。持たれた手は絶対に離さず、くっつけておかなければ危険なのである。

相手との接点は決して最後まで離したり、切ってはならない。最後までというのは、技を決めて立ち上がり、次の技のための態勢ができるまでである。

つまり、一教や二教・三教で押さえてから立ち上がるときも、相手に攻撃されないように立ち上がらなければならないのである。勿論、固め技で抑えるときでも、相手に手を返されたり、打たれたりしないよう、気持ちと力を抜かないように注意して稽古をしなければならない。決めた後で、相手から離れるときのタイミング、呼吸、態勢、角度、目付け等を注意することである。

相手が反撃してきても、いつでも対処できるよう、そしてもっとよいのは、相手に反抗心を起こさせないようにすることである。そのためには、まず危険を感じ、危険を避けるようなセンスを養う訓練をしなければならない。

危険を避ける、武道センスを養おう。