【第128回】 合気道と相対性理論

合気道は宇宙が分かり、小宇宙である自己もわかってくる武道であるが、言葉を変えると、宇宙が分からず、自己がわからなければ合気道の上達はないということになる。開祖も、「合気は宇宙組織を我が体内に造り上げて行くのです。宇宙組織をことごとく自己の身の内に吸収し、結ぶのである。」「合気道は、宇宙の真理に従い、万有の条理を明示する。」「合気道を体得したならば、宇宙の条理が分かり、また、自己をよく知り、分かってくる。」(合気道新聞)と言われている。合気道は宇宙と繋がっており、宇宙が分からなければならないのである。

開祖はよく、宇宙の起源、モノの生成などを、古事記の言葉を引用したり、独自の体験や感覚で得たお話をされていた。開祖は常に宇宙と一体化すべく修行されていたように思われる。

最近になって科学の世界でも、宇宙に大きな関心が示されてきたようだ。その理由は、「物質を含む全時空の起源と進化を論ずる『宇宙論』が、一般相対性理論の成立によって初めて科学になった」(「相対性理論を楽しむ本」PHP文庫)からだという。一般相対性理論によって、これまで解明できなかった事柄が解き明かされたのである。例えば、ブラックホール、「浦島効果」、物質があると時空がゆがむ(光もゆがむ)、等々。

相対性理論はアインシュタイン(写真)という天才が、ほとんど一人で作り上げた理論であるが、それを簡単にいうと、「物理学の法則は、どんな運動をしている人から見ても同じはずである」(同書)であるという。この一般相対性理論は、これまで予測しかできなかった時空でのいかなる運動も計算式で予測する科学にしたというのである。

武道の世界には摩訶不思議と思われることが起ったり、あったりする。自分の目で見たり、自分で体験しなければ、中々信じられないので、そのことは聞いても忘れてしまったり、無視してしまいがちだが、それらの摩訶不思議の幾つかは相対性理論で納得がいくのかもしれない。開祖の合気道に於いても摩訶不思議が幾つかあるが、相対性理論で解釈すると理解できるものがあるように思われる。

その一つに、開祖からも直接伺ったし、本にも書いてあるが、開祖には鉄砲の弾が当たらなかったという。また、戦争に行った合気道の高弟のほとんどが無事帰還されたというが、高弟が無事だったのは、鉄砲の弾が避けていったからと聞いたことがある。少なくとも開祖が嘘を云うことは有り得ないのでそれは事実のはずであるが、見ていない者には完全に信じることはできなかっただろう。だが、それを相対性理論に当てはめて考えれば、信じることができるのではないかと思う。

相対性理論における理論の一つとして、「物質があると時空がゆがむ」というのがある。例えば、常に直線、等速で進むはずの光でさえ、星のそばを通過するときは曲って進むのである。この理論は、アインシュタインが言ったように、日食の際に太陽の後にあるはずの星が、太陽の横の位置にずれて見えることが観測されることで、証明できた。(「相対性理論を楽しむ本」)

これを鉄砲の弾と開祖を光と星の関係に当てはめれば、開祖が時空を歪めたために弾が開祖のところで曲ったことにならないだろうか。常人は時空をゆがめるだけの重力がないので、時空はゆがまず、弾は曲らず直進して当たってしまうことになるだろうが、開祖は、常々「自分自身が魂の練成をして、自分が地球を一呑みにするような、立った姿にならなければなりません。自分に与えられた引力の鍛錬によって、それが出来るはずです。」言われていたように、地球を一呑みにするような魂魄の充実した、強大な「重力」を有して立っていたことになるのではないだろうか。

鉄砲の弾を曲げるぐらいの重力を持つように修行していきたいものである。

参考文献::
『相対性理論を楽しむ本』 佐藤勝彦監修 PHP文庫
『ホーキング、未来を語る』(ソフトバンク文庫)