【第120回】 力み

スポーツでも武道でも、力むのはよくないとされるが、この悪癖はなかなか直らないものらしい。合気道の相対稽古で、相手が力一杯手を取ってきたり、押さえ込んでくると、力んでしまいがちである。人は力むと体を遣っているという充実感をもつようなので、初心者などは、力みを楽しんでいるようにも見える。

力むとはどういうことなのかを考えるに、簡単に言うと、息をつめるために、筋肉が固まってしまうことである。息を止めると気が巡らなくなり、筋肉が固まるから、筋肉は十分に働くことができなくなる。だから、筋肉は効率的に働けず、技も効かないことになるのだ。特に、力むときには浅層筋が固まるため、深層筋が働かなくなって、真からの力が出なくなることになる。

また、手が力むのは、力を出そうとして、はじめに手に力を入れるためである。力は、はじめに体の中心や対極から出し、だんだん末端の手先、指先に来なければならない。これを逆にやってしまうと、無理が生じ、その結果力むことになる。これは合気道だけではなく、野球のピッチャーの投球、ゴルフのスイングでも同様である。

また、力が出るべき体の中心である腹や丹田に力みがあれば、力が出ないので、この力みも取らなければならない。ここの力みを取るためには、胸(医学的には、胸腔を囲む体壁部分である胸壁)の息を腹の下にストンと落とす。すると、胸の筋肉のしこりが取れ腰がスーッと落ち、胸の筋肉が柔らかくなると同時に、腹と手先が結び、手が重くなり、力が通る。

多くの場合、力むのは、掴んでくる相手の力が、持たれている自分の力より大きい場合であろう。相手(の力)が弱ければ、力むことは少ないはずである。ということであれば、相手の力に負けないようにすればいい。一つは鍛錬棒など振って力をつけることである。ある程度の力がつくまではこれは必要であるが、あまりこれに頼ってしまうと体を壊す事にもなるし、物質文明に依存してしまうことにもなる。先述の手先で振っていては、どんどん力みを助長することになってしまうことにもなる。これだけに頼っていては駄目である。

もう一つは、相手よりも強い力が出るような体の遣い方をすればいい。相手が諸手で腕を持ってくれば、相手の諸手よりも強い体幹(腹、腰)を使えばいい。どんなに太い腕でも、体幹(胴)より太い腕はないのである。体幹からの力が手先まで伝わるようにすれば、相当な力が出るし、力みも無くなるだろう。

相手の力がそれほど強くなくとも、力んでしまうことはある。ウンといって息を詰めたり、詰めたまま力を出そうとして力んでしまうのである。息を詰めたり、吐いたりすると、筋肉は固まる。「わざ」を掛けるときは、息を吐くのではなく、吸って息を体に入れ、技を決める瞬間に吐けばよい。

息を体の動きに合わせて吸ったり、吐いたりすると、息切れがしてしまい、結局は力みに繋がってしまうことになる。体の動き、「わざ」は、息に合わせて遣わなければならない。

また、相手の力とぶつかると、自分の力も止まってしまい、動けなくなって、力んでしまうことになる。相手と接したときは、その接点を動かさず、接点を変えるのである。接点を動かそうとすると、相手は必ず反発してくるので、負けまいと力むことになる。

最も大事なことは、相手に触れた瞬間、相手を吸収して貼り付けてしまうことである。相手と一体化してしまうと、相手は自分の一部ということになり、自分の体の一部として自由に動かせるから、力む必要もなくなるはずである。

力みのないように注意しただけでも、いい稽古はできる。