【第119回】 真空の気

同じ道を進んでいて、他人に認められるためには、二段階以上の差が必要であるようだ。例えば、理論的にいっても、初段の人は、二段に限りなく近い可能性があるし、また初級に限りなく近い場合もあるわけで、初段というのは初級から二段までの間にあるということになる。だから、初段は二段の人を自分とほぼ同じレベルだと思うかも知れないし、そうなったらレベルの差を認め難いだろう。従って、初段の人が相手を自分とはさすがに違うと感じたり、参ったと思ったり、凄いと思うのは、理論上は三段以上でなければならないことになるだろう。そうなれば、次元が違うということになる。人に認めてもらうのは容易ではない。

開祖は多くの人たちに、開祖の合気道を認めさせた。合気道の修行者だけでなく、皇族、軍人、政治家、学者、宗教家、芸能人等々も、開祖の合気道に魅せられ、心腹した。これだけ多くの、合気道とは無縁と思われる人たちに認めさせたということは、開祖も、開祖の合気道も、合気道という領域におけるレベルの違いだけでなく、もっと大きな領域でのレベルの違い、次元の違いによるものであろう。

開祖は我々によく「合気道は摩訶不思議」でなければならない、と言われていた。人が見て論理的に分かってしまったり、すぐ出来たりするような「わざ」ではまだまだだということだったのだろう。何故そうなるのか、どうすればそんなことができるのか等、なかなか分からないような摩訶不思議な、自分には到底出来そうもないと思わせる「わざ」でなければならないということだ。開祖の摩訶不思議な「わざ」や出来事は、開祖のお話や本で紹介されている。例えば、鉄砲の弾が発射される前に白い光が見えたので、その光を避ければ弾を避けることが出来たとか、門人が話している最中、離れているところにテレポーションしてしまったとか、大木を引き抜いたとか、黄金体になったとか、鳥が何を話しているのか分かったとか、見えないものが見えた等々である。

開祖は身の軽さ、早業など摩訶不思議な「わざ」をするには、「真空の気」をもってしなければならないと言われている。道歌にも、「真空の空のむすびのなかりせば合気の道は知るよしもなし」と言われている。この「真空の気」がわからなければ合気道も分からないことになる。

真空の気は「宇宙の万物を生み出す根元であり、宇宙に充満している。」と、開祖はいわれている。では、この宇宙の万物を生み出すもとになるもので、宇宙に充満しているモノ(「気」)とはいったい何であろうか。

今や宇宙ロケットが飛んだり、人工衛星が飛び回る時代になって、天文学や物理学や宇宙論も大いに進歩し、いろいろなことが分かるようになってきた。最近の物理学や宇宙論によれば、「宇宙の成分の5%は原子である。しかし、宇宙の成分の95%は未知である」「宇宙には正体不明のエネルギーが、宇宙に満ちている。」「正体不明の成分が二種類あるが、その一つダークマター、もう一つをダークエネルギーといい、前者は宇宙の成分の23%、後者は72%を構成する」等ということがいわれている。(写真)

ダークマターは、目には見えないが重力を及ぼす何かで、暗黒物質とよばれる。見えないので、可視光を発しておらず、電波や赤外線などで直接、観測できない。また普通の物質とはほとんど相互作用しないので、地球すらやすやすと貫通するような粒子と考えられている。

ダークエネルギーは暗黒エネルギーともいわれる未知のエネルギーで、ダークマターや銀河の重力が宇宙膨張のブレーキ役をし、宇宙膨張を減速させているのだが、それ以上のエネルギーで宇宙膨張を加速させているので、宇宙膨張の速度は加速しているという。(「Newton ニュートン」)

「真空の気」とは宇宙の根源的なエネルギーということなので、今の宇宙論でいう「ダークマター(暗黒物質)」「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」ということになるのではないかと考えられる。そうだとすると「真空の気」の存在が確認できたことにもなる。今度は身の軽さ、早業のためにもこの「真空の気」である「ダークマター(暗黒物質)」「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」をどのように遣っていくか、ということになる。まだまだ先の長い研究になりそうだ。

参考文献  「合気真髄」 「Newton ニュートン」 2008年7月号