【第115回】 引力の鍛錬

合気道で技の形稽古をしていると、下手なものはこちらが持っている手を離したり、はじいたりしてしまう。が、上手なひとになるとこちらの手を貼り付け、くっつけてしまう。上手いひとの手など触れて、くっつけられてしまうと、気持ちが吸い取られ、力が抜けて、闘争意欲も無くなるようである。合気道で技を掛ける場合、このくっついて離れない力、引力が重要ということになる。

開祖は、「合気は人の本能たる引力によって、人を通じて宇宙の妙精と一つになって科学しながら業が生まれてくる」と言われている。また宇宙に結ばれる武を武産の武といい、「武産(たけむす)とは引力の練磨であります。」とも言われ、引力の練磨の必要性を説かれている。

引力は、モノとモノとが引き合う力であり、本来、人にも備わっているが、武産の武をするためには、更なる引力の練磨が必要となる。引力の練磨をするためには、引力とはどういうものなのかを考えてみなければならないだろう。引力は、対照が気結びすると発生するという。一般的には、太陽と地球、地球と月、地球とひと等々の間に、引力が発生している。

合気道では、まず、相手と自分が対照になる。ここで働く理想的な引力は、相手が手で取ってきても、その手が離れずにくっついているわけだから、押したり、引いたりするような一方的な力ではなく、押す力と引く力、遠心力と求心力、陰と陽の力が一つになった力であろう。それ故、相手は引くことも、押すこともできなくなるし、その箇所は+−(プラスマイナス)のそれぞれ膨大な力(エネルギー)があるが、その+−の力が相殺してOゼロになるので、くっついてしまい、相手は力が出せなくなるのだろう。従って、この引力が強ければ強いほど、技が効くことになるはずである。

こうしてみると、引力をつけるためには呼吸力を養成しなければならないようだ。呼吸力も遠心力と求心力を兼ね備えた力であるし、呼吸力がつくと相手にくっつくようになるからである。そうだとすれば、呼吸法を沢山稽古するのがよいことになる。

呼吸法の稽古を通して、呼吸力をつけ、相手にくっつくためには、肩を貫き、正しい息使いができるようにしなければならない。また、引力は、対照が明確に両極に分かれていなければ強い引力が発生されないはずだから、合気道の稽古では、「わざ」(技と業)を陰陽、表裏、上下、左右、呼吸等々を対照的にはっきりと遣わなければならないことになる。また、対照との気結びを切らない、螺旋で動く等々、宇宙の法則に逆らわないように修練しなければならない。

合気道で相手にくっついて離れなくなるのを引力だとすると、引力を波動として捉えることができる。船井総合研究所最高顧問である船井幸雄氏は、「いま世の中のことは全部『波動の法則』で解明できる・・・と考えています。」(『180度の大激変!』)と語っている。波動には4つの性質があるが、その内の一つに、「劣位の波動はより優位の波動に変移する(優位の波動は劣位の波動をコントロールする)」と言う。強い引力ということは、優位の波動ということであり、最も優位にあると思われる波動は、宇宙を創造された一元のカミということになるのであろう。従って、真から強い、優位の引力・波動を得るためには、宇宙の法則に則った修行をしなければならないことになる。

引力と結びついた人を通じて、「宇宙の妙精」と一つになって科学しながら、引力の鍛錬をし、業を生み出していきたいものである。

参考文献:
『合気真髄』 植芝吉祥丸著 八幡書店
『180度の大激変!』 船井幸雄著 徳間書店