【第113回】 宇宙のひびき

「合気道の技は、宇宙の真理に合っていなければならない」と開祖は言われている。「五体の<響き>と宇宙の<響き>が同調し合うところに合気の<気>が生じる」、そして「五体の<響き>が宇宙の<響き>とこだますることを<山彦>の道といい、これが合気道の妙諦である。」という。従って「この五体の<響き>と宇宙の<響き>が分からなければ合気道に深く入り込むことは難しい。」ということになる。

6月1日の朝日新聞日曜版の「ナントカ学」で、インドネシア・バリ島で使われる金属舞踏楽器「ガムラン」の記事が次のように載っていた。「私たちが耳にできる音の高さの上限は周波数20キロヘルツとされるが、ガムランは50キロヘルツを大きく越える。」ガムランを数人に聞かせて実験すると、「聞こえていない音にもかかわらず快さや、内分泌や免疫が活性化した。」つまり「人の脳は聞こえていない音にも反応し、<快><不快>を感じるらしい。では、聞こえない音はどこから脳に伝わるのか。(聞こえる)可聴音と(聞こえない)高周波音の両方を一緒にイヤホンで聞いても効果はなかった。可聴音をイヤホン、高周波音をスピーカーで聞くと効果が出た。また体を遮蔽音材で覆うと効果が下がった。結論は、高周波音は体全体で感じていた。」。音は聴くだけでなくて、体に感じて楽しむことができるのである。

我々は可聴音だけではなく、聞こえない高周波音や低周波音を体で聴いていることになる。ただそれを意識できないだけなのである。山や森など自然の中にいると気持ちがいいのは、耳に聞こえない音が体で感じているからだろう。

この聞こえない高周波音や低周波音は波動である。波動は地球上の生物や無生物が発しているし、他の星たちも発している。大虚空がビッグバンで爆発して宇宙が生成化成されているが、その波動は宇宙のすべてのものに及んでいるはずである。この波動を響きというのであろうと思う。「宇宙のひびきは天地万類と共に生きる。これが五体のひびきと同化して、宇宙間の経綸の主体となって止まることなく生成化成への道を進んでいるのである。」と開祖は言われている。

もし宇宙の響きを体全体で感じることができるようになれば、宇宙がその腹中にあって、「我はすなわち宇宙」になるのだろう。我々の体も宇宙にあるすべてのもの同様、宇宙の生成要素と全く同じはずである。宇宙の始まりは中間子であり、これが結びの働きをし、次に素粒子が出来た。この中間子も素粒子も物質ではなく、波動であるという。宇宙は響いているのである。響いて我々の五体にその響きを伝えているはずである。我々の五体が、ガムランを聞いているときのように共鳴すればいいわけである。

開祖はいわれている。「宇宙と人体とは同じものである。これを知らねば合気はわからない。なぜならば合気は宇宙のすべての動きよりでてきているからであります。」従って、人体と宇宙は響き合えるはずである。また「五体の響きは、宇宙の響きと同化しお互いに交流しなければならないのである。それは宇宙に舞い上がった五体のひびきが、宇宙のひびきに<こだま>して力強く、五体に反応しなければいけない。この響きの微妙な変化が武の本源なのである。」とも言われている。(合気道新聞 68号)

五体が宇宙の響きを感じるためには、宇宙の響きに共鳴するよう、響く体にならなければならない。合気道の技の形稽古はそのための秘儀である。宇宙の響きと同化する体をつくるための一つの方法として、古来から行なわれている方法をとるのもいいだろう。祝詞の奏上やお経をあげることである。これを朗々と唱えると、体全体が共鳴箱のようになり、体全体に響いてくる。これによって体が敏感になり、宇宙からの波動である響きが感じられるようになる気がする。何とか宇宙のひびきを感じて、武の本源を知りたいものである。

参考文献:
朝日新聞日曜版の「ナントカ学」(2008.6.1.)
合気道新聞 68号
「神道<はだ>で知る」葉室頼昭 (春秋社)