【第110回】 第一教 腕抑え

合気道でも、技を決めるにはしっかりした腕でなければならない。しっかりした腕とは、技をかけるとき折れない、肩・肘・手首と多少捻られたり絞られてもびくともしない、腹と結びつき腹と連動して動き、発力と呼吸力の備わった腕と言うことが出来よう。

合気道の如何なる技を掛ける場合もしっかりした腕が必要なので、先ずはしっかりした腕をつくらなければならない。

腕を鍛える方法はいろいろあるが、合気道では第一教が最適とされる。二代目吉祥丸道主は著書「合気道技法」で、「腕抑え(第一教)は、最も大切な基本技であり、合気道では、これ一つ完全に修得すれば他の技はほとんど習わずして会得できるとまでいわれている。」と書かれている。一教の技の形には正面打ち、横面打ち、肩取り、胸取り、片手取り(相半身・逆半身)、両手取り、諸手取り、後取りなどの立ち技と座技である。

この一教で最も大事な稽古の目的は、腕を鍛えることである。従って、腕がしっかり出来ていなければ一教は効かないことになる。正面打ち一教で、技が掛からない最大の原因は腕が弱くて折れ曲がってしまい、自分の力が戻ってきてしまうことにある。特に、裏はその典型である。腕が伸びて相手の脇を上げるが、相手が肘を力んで落としてきても自分の腕が折れないようになければ裏は効かない。

一教で腕を鍛えるには、しっかり親指、薬指、小指を締めて握り合って練磨することである。相手の腕を切り下ろして床に押さえ込むときは、しっかり相手の腕を握り込まなければならない。また指先に力を集め、腕(手先・小手・上腕)と腹をしっかりと結べるように鍛えなければならない。

受けを取る場合も、腕が伸ばされるとカスやしこりが取れ、絞られたり捻られたりするので抵抗力も付くので、一教の受けも腕をつくるには最適である。かつての正面打ち一教は、腕を思い切り相手の腕にぶつけて稽古したので、はじめの内は、腕が腫れたり痣ができるほど鍛えられたものだった。

一教以外の技でも「第一教腕抑え」のつもりで、まず腕をしっかり抑えることに集中してやるのも必要である。例えば、「小手返し」であるが、これはかって「第二教」とも言われたように、手首を攻めて倒す技であるが、手首だけを攻めてもなかなか上手くいかないものである。先代道主が「合気道」で、「小手返しという技法は、素人目には実によく効くように感じられるが、これ程効き難い技はなく、(相手の)一寸した体の変化によって全く無効果となり、逆に返されることにもなる。」と言われているように、思うように効かないものだ。

その最大の原因は、相手の手首を抑えている腕がしっかりしていないからである。つまり、「小手返し」の技を効かせたかったら、はじめから手首を攻めるのではなく、しっかりした腕で抑え、第一教腕抑え重視でやることである。これが出来てはじめて、手首を返すことができるようになる。腕抑えが出来ないのに手首を返そうとすると、無効果となるし、争いになりかねない。

また、二教裏で相手を崩し、抑える場合も、手首を攻める前に、相手の腕(手首)をしっかり抑え、十分両手で絞り込んで崩すようにすれば、しっかりした腕ができるし、腕と腹が連動して使えるようになる。これが出来れば、手首を一寸肩に触れただけで、相手は崩れてしまう二教が遣えるようになる。

第一教の他にも、しっかりした腕をつくる稽古法の一つとして、呼吸法がある。片手取り、諸手取り、二人掛け、三人・四人掛け、座技呼吸法等である。この呼吸法を技と勘違いして稽古すると、肝心な腕の鍛えにならないから、稽古の意味がなくなってしまう。呼吸法は呼吸力の養成法であるが、しっかりした、折れない手をつくるための鍛錬法と言うことも出来る。呼吸法はどの道場、どの先生も必ずやるものなので、重要な稽古法である。

また、受身をきちんと取れば、腕は鍛えられる。一教、二教、三教、四教の受けは、最後まできちんと気を入れてとらなければならない。これでカスが取れて、へばり付いていた骨と肉、皮膚と筋肉が別々に動くようになる。多少強く腕を握られても、皮膚や浅層筋を抑えられるだけで、その下の深層筋は自由に働かすことができる。それによって、相手に手首や腕をしっかり抑えられなくなるだけでなく、手が相手の手にくっついて離れ難くなるのである。

更に腕を鍛えたい場合は、木刀や鍛錬棒の素振りなど得物を使った稽古をすればいいし、また腕立て伏せのように自分の体重を使って鍛えればよい。

第一教腕押さえは、想像以上に重要な稽古法である。原点に帰って腕の鍛錬をすべきであろう。

参考文献  「合気道技法」 植芝吉祥丸著