【第11回】 風呂稽古

風呂で柔軟体操をする人は時に見かけるものである。大きな温泉ならば泳いだり、歩いたり、筋肉を伸ばして体をほぐす人もいる。
風呂は浮力があるので、それを利用しての稽古ができる。

まず、拳先(近位指節間関節)(写真上)を鍛えるには風呂の湯船がいい。合気道の稽古では相手を打ったり、突いたりすることはないが、自分では鍛えておいた方がいい。手先がしっかりすると、手全体がしっかりし、技もやりやすくなる。剣先を揃えるか、中立ち一本拳などのように中指あるいは人差し指拳先(近位指節間関節)のを使ってもよいのだが、そのような拳先部分を鍛えるために腕立て伏せをやるとしても、畳の上でさえ痛くてふつうはなかなか出来ないものである。ましてや板敷き、石の上などやるのは至難の業である。
しかしこれを、まず風呂の湯船でやると容易にできる。拳先を湯船の底にあてて浮力で体を浮かし、慣れてきたら体を上下に揺らすと、拳先にかかる圧力の調節が自由にできる。これが、できれば畳の上や板の上でもできるようになるだろう。

もう一つ、浮力を利用した稽古として、「肩をぬく稽古」ができる。湯船に座り、または胡坐をかいて、両腕を脇に軽くつける。腕はお湯の中に沈んでいる。肩がぬけていれば、脇を緩めると両腕が自然に浮き上がってくる。腕があがった形は、中国武術でのタントー功(写真下)に似ている。両腕が浮いてくるようになると、今度は沈めるのに力が必要になる。肩がぬけると、腕や手が重くなって、地球の引力と結ぶことができるのである。中国武術では、大気の中でも水の中にいるように練習するということであるから、風呂の中で腕が容易に浮くようになれば、次は大気の中でも腕が浮くような稽古をしてもいいかもしれない。