【第107回】 多くの分野と接点をもつ

武道は基本的に自ら体を動かし、自分を鍛えるものであり、本来、人に見せるために稽古をしているものではない。これは、人に見てもらうことを目的とするスポーツや芸能とは大きく違う。スポーツは見てくれる人たちを意識して練習することになるが、武道は見せることを意識して稽古をするようでは、上達はないだろう。武道の修練は、自己の追求である。

武道である合気道を修練していくと、自己の中にどんどん深く入って行く。そうするとどうしても接する範囲、活動範囲、思考範囲、興味範囲などが狭くなりがちになる。極端な場合は、それらの範囲はせいぜい合気道、武道、スポーツ等々までであるかも知れない。

世間一般のひとは、武道や合気道の知識はあまりないし、その結果あまり興味も持たないだろう。従って、世間は合気道を過大評価したり、過小評価するものだ。合気道には、素晴らしい思想・哲学があり、人類文明の根本的な問題を解決できる知恵があるのに残念である。

日常生活を送っていれば、いろいろな人と出会い、コミュニケーションをとり、情報交換をするだろう。せっかく合気道を修行しているのだから、合気道の思想、哲学を、会った人たちに伝えたいものである。合気道の仲間にしか話が伝わらないようでは悲しい限りである。

合気道の関係者以外の人と接するためには、合気道に関することだけではなく、出来るだけ幅広い分野のことに興味をもって、勉強しなければならない。かといって合気道と繋がらない、合気道の修行にプラスにならないことはやるべきではない。

一つのことを深く探求していくと、自然といろいろな事に興味を持つようになるはずである。言葉を代えると、興味を持ったことは合気道のためにならなければならないということである。

自分の合気道はどれだけ広い分野に浸透してきたのかを知るには、自分の周りに集まった人たちを見るといいだろう。その人たちは自分の合気道、自分の合気道の思想・哲学に興味をもったり、分かってくれた人たちといえるだろう。新たな分野の人が集まれば、それだけ新たな分野への進出、進歩があったことになる。

かって開祖の周りには、武道家の他にも、皇族、政治家、軍人、学者、文人、思想家、宗教家、教授、医者、実業家、芸能人、花柳界、スポーツの有名選手などなどが稽古人として集まっていた。開祖はそれらの分野の人たちを惹き付けるものを持たれていたので、集まってきたのである。

開祖までには到底及ばないが、武道関係者以外の人とも交流できるよう、多くの分野の人たちと接点がもてるように、いろいろなことを吸収しながら合気道を深めていかなければならないだろう。