【第101回】 頸(くび)

身体は頭、頸(くび)、体幹、四肢(しし)に分けられる。頸は身体の中で一番鍛え難く、弱い部分である。従って武術や格闘技では、この一番弱いところを攻める技が多い。

頸は頭を支え、頭を動かすのに重要であるが、頭と体幹と骨でしっかり固定されているわけではないので不安定であると言える。頭と頸と体幹をしっかり繋げるには、僧帽筋、広頚筋、胸鎖乳突筋などの筋肉を鍛えなければならないことになる。

合気道には、かって頸を締める技があって、よく稽古したものだ。前から両手で締めたり、後から両手で締めたり、後から片手を押さえ、もう片方の手で頸を絞めたりして、技をかけるのである。初めのうちは頸を絞められると、落とされるのではないかという恐怖心からバタバタしてしまい、かえって締められてしまったりしたが、慣れてくると、要領がつかめ、締められても技がうまくかけられるようになったものだ。

開祖はよく、坐ったり胡坐をかいた状態で、一人や二、三人の弟子に頭を押させ、その力を頭と頸で受けとめ、最後には押していた弟子を畳に這わしていた。(写真)我々も開祖の目が届かないところでやってみたものだったが、頸に相当の負担がかかり上手くいかなかった。開祖の頸は相当鍛えて強かったことがわかる。

開祖がなくなられて久しくなるが、最近は頸を鍛える「わざ」とか、頸を絞められたときの「わざ」をほとんどやらなくなってしまった。危険だということと、最近のひとはそのような「野蛮」なことはやりたがらないからだろう。しかし、弱いところは鍛えて強くするというのが武道の鉄則であるので、真に武道を志すものは、頸も他の部位のように強くなるように鍛えるべきであろう。

鍛える方法としては、前述のように、前からや後から両手や片手で頸を絞めさせて技をかける稽古することである。そこで大事なことは、締められているところを動かさないで、肩や腰などの対極を動かすことである。締められたところを動かそうとすると、本当に締まってしまうから注意しなければならない。

開祖がよくやられていた坐って頭を立った相手に押させる稽古もよい。これも相手が触っているところを動かさずに、腹や腰で調子をとらなければならない。初心者はどうしても、相手が押してくる頭を動かそうとするので、非常に危険である。従って初心者はやらないほうがいいだろう。

準備体操で、ブリッジで頸を鍛えることもできる。レスリングの選手などがよくやっている方法である。

頸が強いということは、上から前後や横からの力に対して抵抗力を持ち、また強い力を出せるということになろう。強くするには、頭の上から、横から、後から圧力を加えて鍛錬するのと、頸は柔軟でなければならないから、頸を前後左右に大きく動かし、ぐるぐる回すようなストレッチをするのがよい。

人の強さは頸にも表れる。とりわけ後から人の頸をみるとよく分かるようだ。老化も頸からはじまるといってもいいのではないだろうか。少しでも若くいたいと思うご婦人も、顔は化粧でなんとかできても、頸の皺はどうしようもないようだ。頸を鍛えて武道の身体をつくり、若さを保とう。