【第1003回】 神と一緒
第1001回で、神と共に上達しなければならないということと、その上達には三つの段階があるということを書いた。
- 神の教えで上達する
- 神と一緒・神のサポートで上達する
- 神になって上達する
である。
そして1001回以降は、まずは2)神と共に・一緒に上達していきたいと考えている旨を書いた。
神と共に・一緒に上達するとは、神さまが守り、導いてくれるということであるが、まずはそんな事が有り得るのかという疑問を持つだろう。喩え、それが有り得るとしても、それは大先生だから、大先生にしか出来いのではないかと思うのではないだろうか。私もこれまではそう思っていた。大先生だから神様が付き、神様が導いてくれたのだと。
しかし、今は違う。大先生の話だけでなく、己自身をよく観察して見ると、神に助けられ導かれている事がわかる。当時はそれは偶然で、たまたま助かったと思ったが、よく考えてみると偶然では済まされないことであり、また、そのような命に関わるような偶然が、偶然以上に起こっていたのである。何かが我が身を守ってくれている事を実感するのである。その守ってくれ、導いてくれる何ものかを“神“と呼んでもいいだろうと思うようになった。
神は命の危険から守ってくれるだけではなく、いろいろと分からないことを教えてくれたり、導いてくれる。難解な『武産合気』『合気神髄』を分かるように導いてくれたり、合気道の進むべく道に導き、軌道修正してくれるのである。自分ひとりだけでは到底無理である。
このような状況にあるとき、大先生の高弟であり、養神館館長であった塩田剛三先生の著書を書棚で二冊見つけ、目を通すと今回のテーマ“神”に相応しい話を見つけたので書き抜きして見る。大先生が神と共にあったということである。
- 「先生は月に一度、京都に行って指導されていたのですが、そのお供として私をよく連れていってくれました。先生はいつも鉄扇を持ち歩いています。汽車に乗ると、先生がその鉄扇を私に預けて、こう言うのです。「ワシに隙があったら、いつでもこれで殴ってきなはれ。もし殴れたら、あんたに十段やろう」。そしてお年寄りらしく、座席の上に正座して、そのまま眠り込んでしまいました。寝息を伺っていますと、本当に先生は眠っているようです。しめしめ、と私は思いました。これで十段はもらった。と思って私が今まさに鉄扇を打ち込もうとしたとき、先生がカッと目を開きました。私はビックリして、ピタリと動きが止まってしまいました。先生は微笑みながら、今、夢の中に神さんが現われてな、塩田が叩くぞ、塩田が叩くぞ、と教えてくださったんじゃ」。そんなことを言ってまた眠りにつくのです。私は何度かやってみましたが、やはりどんなときでも先生はきづくのです。本当に不思議だと思いました。」
- 拳銃の一斉射撃をかわした後、先生は「ワシはこの世に必要だから、植芝は生かしとかにゃいかん、と神様のお告げがあった。ワシのミソギはまだ終わっていないから、死なんのや、神様からもうこの世に必要ないと言われたときに、ワシは昇天するんじゃ」。「こんな話をしても皆さんには信じられないかもしれませんが、こういう不思議なことは実際にあるものなのです。」
- 「植芝先生は大変な信仰家でした。そのために朝夕の礼拝が大変で、祝詞をあげ、すべての神様(日の神様から水や草に至るまでの神様)にお礼するのです。約1時間半かかりました。私はなかなか神を信じる気にならず、ただ追従していたに過ぎませんでした。先生の訓話の中に「人間は自分自身が肉の宮であり、自分の中に神が宿っているので、その神に指示を仰ぐべく常に己を清潔にしていなければならなぬ」といわれていましたが、それは真だと私は思いました。」
- 京都の山の中腹にある野外道場に行くとき、先生は坂を登るときは後ろから押されるのが常でした。先生を押している時、先生はほとんど体をもたせかけ、そっくりかえるような格好になるのです。私は茶目っ気がありましたので、もし手を放したら果たして先生はひっくり返るかどうか試してみようと思いました。先生の重みを十分感じた時ここぞと思って手を放してみましたところ、先生はその前にすでにチャンと立っておられ、少しの乱れもなかったのです。後で先生は「塩田はん、何をしておるのや。わしには神さんがついているので、塩田が悪戯をするぞとちゃんと教えてくれるのや。わしは後ろにも目はちゃんとついておるのや。ハハハ」と笑っておられました。
塩田先生は神様にお世話にならないで、自分だけの力に頼るタイプの方だったが、神の存在は信じ、大先生が神と共に修業されていた事も認めておられるのがよく分かる。
私は非力なので神様に支援して貰いたいと思っている。神様と仲良くなり、一緒にできればいいと修業を続けるつもりである。
参考文献
『塩田剛三 合気道修業』(竹内書店新社)
『塩田剛三 合気道人生』(竹内書店新社)
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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