【第93回】 体を痛めないために

合気道の稽古でも、若いうちは筋肉をつけて力をつける。合気道を本当に精進しようと思えば、若いうちは精一杯力稽古をする必要がある。稽古相手や他人に迷惑が掛かるようなら、一人稽古をすればよい。やり方はいろいろあるだろう。有り余るエネルギーや欲求を他人にぶつけるのではなく、一人稽古で昇華させればよい。

しかし、高齢になっても筋肉をつけて力をつけようとするのは不自然である。高齢になったら、ずっと続けられるものをやらなければならない。高齢者は若い頃につけた筋肉や筋を伸ばし、その結果として力が倍増するという稽古に変えていかなければならないと思う。

筋肉を伸ばすには、二つのポイントがある。一つは体の表(背面)の筋肉を伸ばすことである。合気道の技をかける場合でも、使うのは体の表の筋肉であるので、表の筋肉を伸ばすのである。体の裏(前面)の筋肉を伸ばしても余り意味がない。

二つ目は息づかい(呼吸)である。人の筋肉は息を吸ったときに柔らかくなり、吐いたときは硬くなるので、筋肉を伸ばすときは息を吸わなければならない。ただし、この息の吸い方は、普通の人の吸い方ではなく、武道的な呼吸である。つまり、通常の場合は複式呼吸であっても上部の呼吸横隔膜を開いて息をいれるが、武道の呼吸は下部の横隔膜である骨盤底横隔膜を下げて、また広げて息を入れるという呼吸である。

合気道の稽古は、体の節々に溜まるカスを取り除くと言われるように、節々のすべての筋肉、筋を伸ばすのが理想だが、その内で特に高齢者に重要と思われる筋肉のストレッチのやり方を紹介したいと思う。若者にもいるようだが、年配になると膝が痛い、肩が痛いというひとが多いようなので、それを正常に戻すためのストレッチである。膝が痛くなるのは、体の裏(前面)に力が集まり、その結果、膝に負担がかかるからである。この膝の負担を失くすために、力が体の表(背面)に流れるようにしなければならない。

また肩が痛いのは腕(上腕骨)を使いすぎて肩関節を痛めることからくる。その典型的なものが四十肩、五十肩といわれるものである。これを直すのは腕を肩関節に負担を掛けないように動かして使うことである。肩関節を支点に腕を動かすのではなく、腕の最先端といわれる胸鎖関節が支点になるようにするのである。

1.開脚ストレッチ

大腿屈筋(太腿背側)とふくろはぎを床に密着させる
1.足の指先は垂直より後側に向ける
2.腰を折りながら、息を(吸う)腹に入れていく
3.止まったところで痛みが取れるまでそのまま休み、
4.また息を入れながら腰を折っていく

 ※ 無理に床に頭などをつけるのではなく、腰を折る
 ※ 息は吐くのではなく入れる

これで体の表の大腿屈筋やふくらはぎが伸び、股関節が緩み、息の使い方が分かるので、立って意識すれば重心が踵に落ち、膝の負担がなくなり膝の痛みはなくなるはずである。

2.肩を貫く
1.腕を真上に上がるところまで思い切り上げる
2.両方の僧帽筋が合わさるように脇を開く
3.手先から弧を描くように振り下ろす

 ※ 振り下ろし方はいろいろあるが、取りあえず、
   正面打ちと横面打ちでやるのがいい。

この稽古をゆっくりしたペースではじめ、肩を貫くといい。肩のしこりや痛み、所謂40・50肩が取れるはずである。力の質もかわり「わざ」も変わる。もっと肩を柔軟で強靭にしたいなら、鍛錬棒を大きく回しながら振るといい。合気道の形(かた)で鍛えたいならば、四方投げで鍛錬棒を回して振る要領で、大きく回して投げるのがいい。しかし、十分肩が貫けていないと肩をいためるので注意が必要である。