【第92回】 膝を痛めないために

年とってくると、体のあちこちが痛いと嘆く人が多くなる。合気道の稽古をしている人にも多くいる。大体は歳のせいで体にガタがきたのでしょうがないと思っているように見受ける。確かに歳を取れば誰でも体の何処かにガタはくるが、体のあちこちの痛みは歳のせいだけではないように思う。

合気道をやっている人の多くは、大なり小なり膝を痛めているようだ。結構多くの人が膝にサポーターをしている。特に年配者のほとんどはサポーターをしているようだ。また膝を痛めているひとの多くは腰も痛めている。だが、年配者だけではなく、稽古をしている若者も膝を痛めている者がいるということは、歳のせいで痛くなるだけではないということだろう。

膝が痛い、腰が痛いということは、その部分に負担がかかりすぎているということである。膝に負担がかかる原因は、つま先に重心が掛かり過ぎるためである。つまり、膝を痛めている人は体の裏を使って、歩いたり動いたり、稽古でも「わざ」をかけているのである。体の裏というのは、胸、腹、膝、脛、つま先など、体の前面である。体の裏側であるつま先を使っていると、膝だけではなく、腰にも負担がかかってくるので、腰も痛めることになる。とりわけ高齢になってくると、肩が前に出て来るので、重心が体の前(裏)に落ちてくるため、ますます膝に負担がかかるようになる。

お相撲さんは、自分の体重をつま先にかけないようにしている。それが分かる好例は、取り組みが終わって土俵から降りるときである。(写真)どの力士も決してつま先から降りず、踵から降りている。あの体重と段差による勢いからつま先から降りたら、間違いなくつま先を傷めるはずである。我々一般人は力士より軽いが、それなりにつま先に負担を掛けないように注意する必要がある。例えば、我々は土俵には縁がないが、階段を降りるときなども、つま先で降りないようにしなければならない。

体は表側(後面)を使わなければならない。表側を使うのは体にいいだけでなく、合気道の「わざ」でも表からの力を使わないと効かない。歩くときには、重心が踵に掛かるように、踵で歩くようにしなければならない。道場だけでなく、町を歩くときも、階段や坂を上がるときも、踵で歩くようにならなければならない。踵で歩くということを、もう少し詳しく説明すると、つま先で蹴って進むのではなく、体重(重心)を踵に載せて、その重心を踵の上を飛び石のように移動していくのである。その際、ナンバで歩くことと、踵に重心が載ったときの息の出し方と入れ方が大事になる。

まずは膝を痛めないため、また痛めている膝を正常に戻すため、さらには腰を痛めないためにも、つま先に重心をかけずに、踵に重心を掛けて歩いてみるとよい。膝に負担が掛からなくなれば、地を踏んだ時の力が踵から腰、背中、腕(肘側)、手首、指先と体の表側を流れる感じを持つことができるようになるだろう。この表の力を遣えば合気道の「わざ」も変わり、無理なく長く稽古を続けられるようになるだろう。