【第74回】 惰性

道場の稽古では、いろいろな人と稽古することになる。向こうからお願いされる場合もあるし、こちらから声をかける場合もある。長年道場に通っているので、ほとんどの人は知っているし、大体の人とは一緒に稽古をしているか、稽古していなくともその稽古を見ているので実力はわかる。私がこちらから声をかけて稽古をするのは、大抵の場合、その人がどれだけ変わったのか確認したいためであり、また自分がどれだけ変わったかを知るためである。

一般的に初心者であればあるほど、体遣いや考え方は早いペースで変わるが、有段者になり、高齢・高段者になってくるとあまり変わらなくなってくるようである。稽古事を長くやり続けると、どうしても惰性になり勝ちである。ただ稽古を続けていれば上達すると思ってしまうのだ。よほど自分に厳しくし、自分と戦う意志がないと、惰性に陥ってしまう。

今日の稽古の自分が昨日と同じなら、明日も、そして一年後、10年後も同じで、今日と変わらないことになってしまう。しかし、今日は昨日と違っていなければならない。今やった技が前より上手くいっていれば、明日、来年、10年後が楽しみというものである。

今、出来なくてもよい。技を失敗してしまってもよい。出来るように努力して、成功に近づいていけばよいのだ。今は大事だが、それがゴールではない。ゴールはもっと先にある。ゴールを目指して精進することが大事である。高齢者にマンネリで惰性で稽古をする余裕はない。