【第621回】 中継ぎの使命

これまで「人間だけでなく、万有万物は使命をもっている」と書いてきた。開祖は、「使命は生まれながらに天から授かっているのです。魄をもったことは天からの使命を持たされたことなのです」と言われているのである。
しかし、「使命」を分かったかのように書いてきてはいたが、「使命」にはもう少し深い意味があるようなので、今回はその研究をしてみたいと思う。

先ず、開祖の教えを読み返してみると、使命にもいろいろな使命があることがわかる。目についた内のその幾つかを挙げてみると、○合気の使命。これは合気道家の自身に与えられた使命である。○万有に与えられた天の使命:万有は天から使命を与えられている。○自己の使命:与えられた自己の使命に打ち勝つことを正勝我勝という。○自分に課せられた天の使命:これまではこれを主な使命と考えていた。つまり、「自分というものはどこから出てきたものであるか、また自分は何事をなすべきか、よく自分を知るということが自分に課せられた天の使命であります」ということである。○武道家の使命:「全大宇宙の無限の発展完成のために、武、即ち戈(ほこ)の争いを止めさせるのが真の武人。武道家(真の武人)は宇宙より課された、この有意義な大使命を果たすことにより、宇宙を和と統一に結ぶことができる。かくして世界は平和になる。(合気真髄)」○大神の使命:「武は生きて、赤き血にたぎりによって生きています。緒結びによって、千種を生み出しています。これは、科学した業であります。その大神の使命の受霊をもって、世に立たして使命の上に振い立つ時は、神がその身に仕組みしてゆくのであります。」○天授の使命:「人間は、汚れけがれを淨め祓い、そしてその人その人の天授の使命を完うさせていくのが、合気道(p.26)」○天からの使命:これは重複であるが敢えて加える。「使命は生まれながらに天から授かっているのです。魄をもったことは天からの使命を持たされたことなのです。魄を育てあげるだけの能力を持たされているのです。」○合気道の使命: 宇大を淨め、清い清い世界の楽土建設のため、宇宙建国精神へのご奉仕P.61
等‥である。
つまり、万有万物が使命をもっているということであり、その使命に負けないよう、打ち勝っていかなければならないということである。

しかしながら、いろいろな使命があり、その各々が正勝我勝であることは分かったが、具体的にどんなモノ、どんな事が使命なのかがはっきりしていなかったので、考えてみることにする。まずは自分の周囲を見渡してみることにする。

いつも不思議に思っていたことは、人は生まれては来るが、いずれ死ぬことになるのに、何故、死ぬことが決まっているのに、正勝我勝などといって、苦労しながらでも生きようとするのかという事であった。
しかし、それは使命があるから、その使命を果たすために、私生活でも、合気道の修業でも正勝我勝なのであるということは少しわかったわけであるが、その「使命」が未だ明瞭ではない。

そこで考えたのは、使命のすべてではないだろうが、その重要な部分は中継ぎ、継承、引き継ぎではないかということである。
つまり、先人から受け継いだモノ・事を次世代の後進に引き渡す役割ということである。先人から正しく引き継ぎ、それを発展させたり、改善したりして、そして次の世代の者に引き渡すことである。例えば、何代にもわたる老舗は世間から評価されるが、それはその老舗が中継ぎの使命を果たしてきているからだろう。また、子供や孫やひ孫を育てるのも親の使命である。子供や孫やひ孫に勉強させるだけではなく、礼儀作法を教え、立派な大人に育てることである。会社やその経営者にも使命はある。過去の業績やノウハウを更によくし、次の世代に引き継ぐことであろう。だから、会社をつぶすことは先につなげることができなくなるわけだから、使命が果たせない事になり、人も天も冷たい目でみることになるわけだろう。だから、中継ぎが使命といってもいいのではないかと思う。

芸能(お能、歌舞伎)、茶道、華道、音楽や絵画などの芸術。また、相撲、スポーツ、科学や研究等‥もこの中継ぎが使命の大きな部分を占めていると思う。芸能の使命、芸術(音楽、絵画)の使命、相撲・スポーツの使命、科学や研究の使命なども、合気道の使命同様、使命があるはずである。合気道では、過去の教えをしっかり身につけ、そしてそれを基にして発展させ、そして後進、後輩に引き継いでいくことも、合気道の使命と考える。例えば、合気道の技は宇宙の法則に則っているわけだが、宇宙の法則は星の数、否、無限にあるはずであるから、我々一代、二代ですべて見つけ出すことなど不可能である。何代にもわたって探し求めていかなければならないわけである。
それ故、尻切れトンボにならないよう、しっかり諸先生や先輩の教えを身につけ、鍛えていかなければ、合気道の中継はできず、使命を果たせないことになってしまう。
これが宇宙の目指している宇宙楽園建設のための生成化育だと考える。