【第609回】 『歳をとったら古都になれ』

70才の後半になったが、合気道も人間としてもまだまだ半人前、大先生の言葉を借りれば、「鼻ったれ小僧」である。私の考えでは、人は80才にならないと、どうも一人前にならないように思うので、自分も80才まで何とか一人前になりたいと思っている。80才で一人前というのは、一人前の老人になることである。最近はこの老人という言葉が使われなくなったので、高齢者、後期高齢者と言って来たわけである。

これまで、この「高齢者のための合気道」の論文集のところで、高齢者の合気道はどうあるべきかと共に、一人前の高齢者(老人)になるためにはどうすればいいのか、どのような高齢者(老人)になればいいのか等を研究しながら、書き続けているわけである。

このようなことを考え続けていると、目に入るモノ、耳から聞こえるモノが語り掛け、いろいろ教えてくれる。
今回は、ラジオ番組では年配者相手に「ジジイ」「ババア」といった毒舌トークで圧倒的な人気を誇っている毒蝮がNHKのテレビに出ていたので見ていたら、心に響くような言葉が入ってきて、これからの自分にも大事な事だと思ったので、それを今回の論文の主題にした。

毒蝮は「古いようで新しい」と思わせないといけないと言う。「俺は『歳をとったら古都になれ』って言ってんだよ。京都とか奈良とか鎌倉のことだ。ああいう場所を『古くさい』って言う人いないだろ? 若者に向けて何かしてるわけじゃないのに、若者がみんな喜んで行くんだよ。
落語もそうだ。『江戸時代の話をしてるのに、今でも面白い。それは本質的に面白いからなんだ』と。」

そして古都になるためには、年を取ることの他に、「チャーミングであれ」という。
チャーミングになるためには、健康、身だしなみ、知性が大事であるようだ。寝たきりやだらしのない服装、知性がなければ、チャーミングではないから人は寄って来ない。

合気道の世界で云えば、足腰をしっかり鍛え続けたり、病気や障害に陥らないようにしたり、身だしなみに気をつかい、自分を出せるような新しい服装や髪にし、持ち物を持ち、本を読んだり、新聞やテレビから現在・過去・未来の知識や情報を得ていくのである。
古都のように古いが、新しくなるのである

しかし合気道で言えば、最高のチャーミングは「愛」であろう。対する相手、周りの人達、人類、万有万物に対する「愛」である。この「愛」を持つためには、人類も鳥獣虫魚類も万有万物は、時間(過去、現在、未来)や空間(国、地域)に関係なく、地上天国、宇宙楽園をするために、共に生きている事ということである。つまり、みんな同士であり、家族であるということである。この「愛」を持って年を取れば、チャーミングな古くて新しい古都に成れるのではないだろうかと考えている。