【第591回】 高齢者の運動

年を取ってくると筋肉が衰え、体は固くなり、体の動きも鈍くなる。50才、60才ぐらいまでは、何とかその衰えをカバーできるが、70才を超えてくると、意識してその対策を講じ、実行していかなければならないようだ。
合気道を長年稽古してくると、つくづくそう思える。
そのポイントは運動と食事と睡眠と思うが、今回は運動について書くことにする。

そこで今回は、合気道を稽古している高齢者のための、衰えをカバーするための運動を考えてみたいと思う。
合気道の稽古に通っても、高齢になれば体は衰えるから、技をつかって相手を投げたり、抑えるのは段々大変になる。だから、加齢で衰えていく体の速度に負けないよう、また少なくともその速度を遅めるように、体を鍛えなければならないだろう。

合気道の道場で相手を投げたり抑えたりするためには力をつかうので、体は鍛えられているはずである。しかし、年をとってくると、若い頃と違って、自分の形ができ、動きも決まってくるので、つかっている体の部分はほぼ決まってくるように思う。若くて元気に飛び回って投げたり、受けを取ったりした頃は、全身をつかっていたのとは大違いになる。
つまり、高齢になると体は、つかわれる部位とつかわれない部位ができてくることになるのである。
そこで、道場の外の自主稽古で、つかわれない体の部位がないように鍛えるのである。

体を、手と腕、腰腹、脚と足、指先に分けて鍛える。
まず、手と腕の筋肉が落ちないように、出来れば筋肉がつくようにする。そのため、木刀などの得物を振るのがいい。また、稽古カバンは背負わずに、手で持って運ぶ等、常に手や腕の鍛練を意識することが大事なのである。

次に腰腹の鍛練であるが、腹筋運動は腰を痛める危険性があるので、余りお勧めしない。私がやっている運動は、鍛錬棒を振ることである。家の天井が低いので、坐って振る。注意するのは、腰に負担が掛からないよう、腹に力を入れて腹で振るのである。また、両ひざを陰陽につかい、腰腹を十字に返しながら振れば、股関節が頑丈で柔軟になる。
これで上半身と腰腹が鍛えられる。

更に、下半身の脚と足を鍛えなければならないが、四股踏みがいい。但し、四股踏みは、初めは様にならないはずである。しかし、1,2年我慢してやれば、様になってくると同時に、合気道の息づかい、天地の息づかい等も身に着くようである。

最後に、手先・指先であるが、これは手首関節柔軟法で柔軟にすればいい。
ここで重要な事は、指の各関節、手首、肘、肩、胸鎖関節、首までのすべての関節をやること、各関節をしっかり十字(直角)に返すように努める事、そして息に合わせてやることである。息は、技と同様、イクムスビや阿吽である。

自主稽古では、このように体の部位を分けて鍛えるが、これらの部位をつなげて、一体化する稽古は、道場での形稽古でやればいいわけである。
また、この高齢者の運動で大事な事は、毎日やることである。自分にあった回数を決め、毎日それを繰り返してやるのである。
高齢者になれば、勤めに行く必要はなくなるので、時間はあるだろう。小一時間ぐらい運動すれば、食欲も出てくるだろうし、沢山食べれば筋肉がつく。体の衰えが抑えられ、上手くすれば体が出来ることになるわけである。