【第571回】 腰が固まっていく

最近、街を歩く高齢者を見ていると、まともに歩けていない人を多く見かけるし、そういう高齢者がどんどん多くなっているように思える。そしてまた、その内の多くが、数年後、いや来年恐らく街を歩けなくなるだろうと思えるのである。

まともに歩けていない高齢者の歩き方は、体幹と頭が動かずに足だけをちょこちょこ出して進んでいる。非常に不安定で、何かに当たったら転倒してしまう危険な歩き方である。しかし、ご本人は歩かなければ、ますます歩けなくなり、寝たきりになってしまうことを知っておられるだろうし、そうなりたくないから街に出て歩かれているわけだから、御気の毒である。

まともに歩けない高齢者の姿を後ろから見ていると、歩けない原因は腰にあると見る。腰が固まっているのである。歩くのがひどい人ほど、腰を中心にしてその固まりが拡がっているのがわかる。ひどい人は腰から肩までの背中全体までが固まっている。亀の甲羅をまとって歩いているようである。

腰やその周辺が固まってしまう最大の原因は、一口に言えば運動不足、とりわけ歩かない事だと考える。車や電車、バス、電動自転車などが手軽に使えるし、時間に追われる生活のために、のんびり歩く余裕もなくなったためだと思う。
最低でも一日1時間、出来れば一日2時間(昔のいっとき)歩かないと、体(内臓や筋肉等)のバランスが取れないように思える。人の体はそのように創られているように思える。山などに登ってみるとわかるが、体の調子が良くなり、自分の体だなと感じられるようになるのは、登り始めて2時間ほどしてからである。
しかし、この忙しい世の中では、2時間も歩くのは難しいだろう。だが、何かそれを補充する対策が必要である。

合気道の稽古をしていて分かってきたことであるが、体の関節と筋肉を操作するのは腰のところにある「仙骨」のようである。この仙骨が立ったり倒れたり、また、呼吸することによって、関節や筋肉が緩んだりしまったりするのである。剣を振り上げる際、肩を貫くためにもこの仙骨に働いてもらわなければならない。勿論、合気道の技もこの仙骨をつかわなければ上手く掛からない。

腰が硬いというのは、股関節が硬くなることの他に、この仙骨が固まって機能しなくなることであると考える。
従って、股関節と仙骨が機能するように鍛えればいいことになる。
股関節を柔軟にするために、合気道の稽古では、腰を十字につかって技を掛ける。前足に体重を掛けながら、前の足先の向きに腹を直角に返すのである。初めはなかなか直角にならないし、腹からの重心も前足に完全に掛からないが、それを意識して稽古しているうちに出来るようになるものである。股関節が柔軟になると、確かに腰も柔軟になる。
合気道をやらない人でも四股を踏むとか、柔軟体操をするとかで股関節を柔軟にすればいいだろう。腰を柔軟にする方法は、いろいろな本やネットで紹介されているようだから、自分に合ったものをみつけ、それをやればいいだろう。

次に仙骨である。仙骨を柔軟にしたり、鍛えることは、本やネットでは紹介されていないようだ。合気道を通して鍛えるしかないようだが、仙骨を合気道の形稽古で鍛えるのは、初心者には難しいかもしれない。何故なら、仙骨を息でつかわなければならないし、天地の呼吸に合わせてつかわなければならないからである。
そこで「仙骨体操」をお勧めする。簡単な体操なので数分で毎日できる。
朝、目が覚めたら寝床の中で仰向けでやるのである。
この詳しい体操の仕方は、「合気道の体をつくる」で紹介することにする。