【第557回】 高齢者の体づくり

年を取れば老化し、体は衰退していく。これは自然の理である。年を取れば若返り、体が瑞々しくなったり、筋肉がついて成長するなど聞いたことがないから、自然の理、宇宙の法則と云っていいだろう。

我々人間にできることは、その衰退や老化の速度を遅らせるだけだろう。
だから、人は、その衰退速度を遅らせるために化粧したり、運動をしたり、鍛錬するのだろう。

合気道では年を取ってくると、体が衰えたり硬くなるのが問題である。思うように動けなくなったり、技が上手くつかえなくなるからである。

しかし合気道は柔軟な体づくりのために稽古をしているのではない。ストレッチ教室などとは違うのである。稽古の結果として、体が柔軟になり、老化が遅れるということだけである。

だが、合気道では柔軟な体づくりは大事である。若い内は問題なくできるだろうが、高齢者になると難しくなってくる。しかし、出来ない事はない。それは大先生や有川定輝先生を思い返せばわかる。大先生には、晩年の5年間ほど教えて頂いたが、体の柔らかさには時々驚かされた。我々若者たちより柔らかかったはずである。特に、腰の柔軟さは天下一品であった。
また、有川定輝先生の手の指、肩、腰は超人的な柔軟さであったし、年とともに
衰えるどころか、より柔軟になっていたように思える。

大先生も有川先生も、お年とは関係なく柔軟な体を保つだけでなく、年とともにより柔軟になっていたように思える。その理由は、稽古で芯がしっかりしていけばいくほど、体は末端から更に柔軟になっていくのではないかと考えている。

しかし、われわれは大先生や有川先生とは違うから、老衰速度を遅らせるためにやるべきことをやらなければならない。

体を柔らかくするために、若い頃のように、ただ体を稽古で動かしても駄目である。理合いで体をつかって稽古をしなければならないだろう。
技と同じように、宇宙の法則に従って体のつかい方をしないと、体は柔軟にならないはずである。技であっても、柔軟運動であっても、十字、陰陽でやるのである。

更に、重要なのは息(呼吸)である。息で体を導いてストレッチをし、技もつかうのである。息はイクムスビ、阿吽の呼吸である。息のつかい方を間違えると、体は拒否反応を起こし、固まってしまい、柔らかくならない。

もう一つ大事な事を付け加える。頭である。頭を柔らかくすることである。年を取るに従い、頭は固くなる。所謂、頑固になる。人を観察していると、頭の固さ、頑固さと体の硬さは比例しているようだ。だから、体を柔らかくしたければ、頭を柔らかくすることである。物事を斜に見たり、悪いところを見て喜んだりせず、いいところを見、生きることを楽しみ、生きていることに感謝すればいいだろう。