【第413回】 六十、七十は鼻たれ小僧

以前から何度も、50、60歳は鼻ったれ小僧、と書いてきたが、自分は古希を過ぎても、まだまだ何も知らない鼻ったれ小僧ではないかと思っていたところ、60、70歳も鼻ったれ小僧である、といわれた方が居られた。やはりそうだったのか、と思う次第である。

合気道の開祖はよく、50、60歳は鼻ったれ小僧、といわれていた。平均寿命が今より短かった頃は、確かにそうだっただろう。だが、今日のように平均寿命が80歳以上にもなってくると、鼻ったれ小僧の年齢が上がってくるのも当然ではないだろうか。

60、70歳などまだまだ鼻ったれ小僧で何もできない、といったのは、平櫛田中(ひらぐし・でんちゅう)である。彼は1962年に文化勲章を受章した木彫界の重鎮で、東京芸大名誉教授でもあった。平櫛翁は107歳で長寿をまっとうし、「六十・七十は鼻たれ小僧。男ざかりは百から百から」という有名な格言を残している。また、翁は満百歳の誕生日を前に、30年分の材料を買い込んだということである。信念を持たれ、その信念を果たすための努力をされていた、ということだろう。

70歳になったら鼻ったれ小僧を脱していなければならないはずであるが、脱しきれずに少しばかり焦っていた。それが、平櫛翁のお陰でもう少し鼻ったれ小僧でいられる期間を延ばしてもらえることになり、気が楽になった。

翁の考えでは、80歳から小僧を脱して大人になり、100歳まで成長。100歳から本当の自分が出てきて、本当の仕事ができるようになる、ということであるようだ。

合気道の修行も、60、70歳ではまだまだ鼻ったれ小僧レベルのものであろう。80歳ぐらいから本格的な修行に入れて、100歳から男盛りで本領を発揮できる、というものではないだろうか。

「六十・七十は鼻たれ小僧。男ざかりは百から百から」を肝に銘じで、心機一転、稽古に励むことにしよう。

参考資料
NHK日曜美術館 「黒船襲来 日本画の革新! 百年の革新」(2014/03/02)