【第401回】 八百万(やおよろず)の神

合気道は宇宙の営みである一霊四魂三元八力を学ぶものであるが、そのためには、宇宙の大本である一元の大神に結び、つながらなければならない、と教わっている。一元の大神の一霊が、モノの元であるタカミムスビ(地上ではイザナギ)と精神の元となるカミムスビ(地上ではイザナミ)の二元、そして、八百万の神々を創り、各々の役割を与えて、宇宙を生成化育していっているという。

一元の大神とは、宇宙楽園建設のために宇宙の中心にあって、神道では天之御中主神、仏教ではブッダとか大日如来、キリスト教ではゴッドといわれている、偉大な最高神である。

しかし、だからといって、一元の大神である天之御中主神だけに感謝すればよいということではない。八百万の神様たちにも感謝しなければならない、と開祖もいわれている。

これまで、八百万の神とはどのような神様で、どこで、どのようなことをされているのか、知らなかったし、気にもしなかった。だが、年を取ってきたことが関係すると思うが、いかにわれわれは八百万の神様にお世話になっているのか、実感することになる。

12月初旬に仕事の関係でドイツの本部から人が来て、重要会議のため、一日4か所を一緒に訪問することになった。綿密な計画を立てたが、移動時間が非常にタイトである。特に、広尾にあるドイツ大使館から、土浦のドイツ企業の工場までがヒヤヒヤものだった。上野駅から予定の特急を逃したら、そこでの重要な会議はオジャンであるから、1分も無駄にできない。

ドイツ大使館での会談が5分ほど長引いたので急がなければならなかったが、ありがたい事に田町駅までのタクシーもすぐにつかまり、駅に着くとちょうどよく快速電車が入って来た。お陰で予定の列車に乗ることができて、予定の時間に工場に着き、無事に会談を終えることができたのである。

偶然やラッキーな事が重なり、あまりにもうまく事が運んだので、帰りの電車の中で八百万の神のことを考えることになった。というよりも、考えざる得なくなったのである。今回のことも、いろいろな幸運の他に、八百万の条件が満たされて、無事に終えることができたわけである。

例えば、予定の特急電車に乗ったのはよいが、何かの事情で止まったり遅れる場合もあるだろう。電車が走りはじめても、運転手が心臓麻痺などで突然倒れないという保証は100%ない。沿線で人身事故でも起きれば、列車は時間通りには走ってくれない。特急電車の車体や機器の一部に異常が発生すれば、動かなくなる。架線が切れたり弛んだりすれば、電気が切れるだろう。もし乗客の中にハイジャックとまではいわなくとも、ちょっと異常な人でもいれば、電車は止まってしまうだろう。病人がひとり出て途中の駅で止まっても、時間通りには着けないわけである。あるいは、大きな地震や強風や落雷があっても、駄目だろう。

このように考えていくと、いろいろなものや事や人が正常に機能しなければ、予定通りには進まないことになる。正常に機能してくれなければならないものは無限にあり、つまり、八百万あるということになる。その日に緊張したせいか、すべてが正常に機能するように働き、そして、支援してくれているものがあるように思え、それが八百万の神の働きではないだろうかと考えたのである。

これで、八百万の神が身近に感じられるようになった。いつもどこでも、われわれを見守り、支援してくれている存在である。感謝しなければならないだろう。