【第392回】 後進に伝える

人類の歴史はたかだか数百万年であるといわれており、その間に生まれ死ぬ、を繰り返している。だが、何かに向かって進んでいることは確かなようだ。

合気道では、人類だけでなく地上の万有万物は、地球楽園建設に向かって、分身分業、使命をもって進んでいる、と教えられている。

合気道の開祖、植芝盛平翁は合気道を創り、それを後進に伝承するという使命を持たれていた。この開祖からの合気道の伝承、普及を使命とする開祖の後進も大勢世に出ているし、これからも出てくるはずである。

しかしながら、後進に合気道を伝えていくのは、容易ではない。自分は合気道を何年か稽古し、相手を投げたり抑えたりすることがうまくなったから、先人・先輩として教えようということであるならば、後進はついてこないだろう。

合気道を教えたり、伝えたりしたければ、後進に、先人・先輩のようになりたい、そういう技を使いたい、真似をしたい、と思わせるようにならなければならないだろう。例えばだが、人間離れして強い、神業のようでうまい、動きや体勢が美しい、等々である。

開祖をはじめ、開祖の直弟子であり、本部道場で教えられていた師範の先生方は憧れの的であったし、そのようになりたいと生徒に思わせたものであった。そして、不可能ではあろうが、一歩でも開祖や先生方に近づきたいと思って稽古していたと思う。まことに、すばらしい先生方であった。

しかし、先生方の大半は亡くなられ、当時の教え、稽古法、技つかいなども忘れられようとしている。時代とともに稽古法、考え方など変わってもよいだろうが、変わってはならない事もあると思う。そういう事を、先人・先輩は生徒や後進に伝えて行かなければならないだろう。

人に教えたり伝えて行くのは、そう簡単なことではない。また、伝えるのは誰でもよいということでもない。教える者に興味を持ち、そのためにどうすればよいか知りたいと思っている者にしか、教えることはできないのである。

合気道の先人・先輩はプロフェッショナルではないのだから、後進に教えなければならないという義務はない。だが、興味がある後進には伝えていって欲しいと思う。

合気道を半世紀近く精進してきたが、これからは合気道のすばらしさを伝播すべく、また、お世話になった合気道と開祖や二代目道主、諸先生や先輩にお礼すべく、微力ながらも後進に、自分がやってきたこと、会得してきた事などを、伝えていかなければならないと思っている。