【第364回】 世界を知る

合気道を修行するものは、誰でも少しでも上達したいと願いながら、稽古に励んでいるはずである。しかしながら、その上達はなかなか難しいということも、誰でも知っているだろう。

合気道の上達が難しいというのは、長年やってもそれだけの成果が出ないということであろう。他のことなら、その年数と熱意があれば、相当の上達がある、と考えるのではないだろうか。

たしかに稽古を始めて5年、10年はうれしい進歩があるが、20年、30年続けていくと、進歩・上達がピタッと止まってしまうのである。そうなれば、他のことをやっていたらよかったなどと思ってしまうだろう。多くの稽古人は、この時点で、合気道からリタイアということになるようだ。

しかし、多くの稽古人が、それでも引き続き稽古に励んでいる。また、リタイア予備軍にリタイアさせないためにも、さらなる上達の方法を考えてみなければならないだろう。

このような大それたことを書くのも、次の二つのことに免じて許してもらいたいと思う。一つは、合気道を半世紀にわたって修行していること。もう一つは、古希を過ぎた高齢者であることである。まあ、年寄りの戯言と思って読んでもらえばいい。

さて、ストップしている上達の方法である。上達の有無が最も分りやすいのは、相対稽古で相手に技をかけてみればよいわけで、その結果は自分が一番よくわかる。技が前よりうまく使えるようになれば、上達したことになり、以前と同じ失敗や問題があれば、上達がないということになる。

上達するには、まず、稽古を続けなければならない。稽古しても上達する保証はないが、稽古しなければ絶対に上達はない。

しかし、従来通りに道場に通ってただ稽古を続けるだけでは、上達は難しいはずである。なぜならば、今までそうやってきたことを続けているわけだから、レベルはずっと同じということになるからである。レベルアップのためには、従来の稽古にプラスアルファが必要だろう。

例えば、従来の道場稽古に加えて、道場以外での一人稽古である。山歩きで足腰を鍛えるとか、家で剣や杖の素振りの稽古をする、等である。

それから、合気道以外の世界を知ることである。テレビや映画や新聞などで世界を知ることである。世界を知ることは合気道を知ること、そして自分を知ることになる。世界を知ってくると、自分がいかに世界を知らないか、自分自身を知らないか、そして合気道を知らないか、が分かってくる。

合気道が分かるということは、合気道がいかにすばらしいものであるか、また、それ故に世界に普及させ、そして後世にも伝えていかなければならない、と思うことであると考える。そうなれば、稽古への取り組みも変わってくるはずである。

最後に、開祖からのアドバイスを紹介する。
「武を修する者は、万有万神の真象を武に還元さすことが必要である。(中略)また、(世界への動向、)書物を見て無量、無限の技を生み出すことを考えるとかしなければならない」(「合気真髄」)

要は、本をたくさん読んで、技に取り入れて行きなさい、ということである。上達したければ、本を読め、ということである。本は先人の残した遺産であり、知恵である。また、自分の世界の外を教えてくれる知恵と知識の宝庫である。知恵や知識の宝庫が、身の回りにあるのである。それも、無尽蔵にある。それを活用させてもらわないのはもったいない。

スランプに陥った時、どうすればよいかと迷ったら、『合気真髄』や『武産合気』を読んで、開祖にお手伝いして頂くのがよい。開祖は我々稽古人が持つだろう問題も予測され、その解決法を考えておられたのである。

高齢者になれば時間もできるし、精神的な余裕もあるだろう。スランプ脱却のために、そして後進や世界のためにも、これら新たなことに挑戦してみてはどうだろうか。