【第143回】 ボケないために

仕事をやめると、いわゆるボケる(認知症)人が多くなるように思える。仕事をしている人の中ではボケている人はいないようなので、どうやら仕事をすることにボケない要因があり、仕事をしないことにボケになる落とし穴があるようだ。

仕事をするということはお金を稼ぐことなので、義務と責任があり、毎日が緊張の連続であるといってよいだろう。この緊張の中で、自分の義務と責任を果たすためには、頭を遣い、体を駆使することになる。この頭と身体を緊張感の中で働かせることが、ボケを近づけないことになるのではないかと考える。

以前、マスコミで頻繁に取り上げられて、日本人なら誰でも知っていたと言ってもよい、100歳を越しても元気で活躍していた双子の姉妹、きんさんとぎんさんだが、その姉妹はマスコミに取り上げられる以前は、中度の認知症(ボケ)であったといわれる。それがマスコミに取り上げられ、取材を受けたり、全国各地を旅行するために筋力トレーニングをした結果、リポーターの質問にも的確に応答したり、出演ドラマの台詞も記憶できるなど、認知症の症状が改善されたといわれる。

医学会でもこの事例は注目され、「認知症の予防には、常に新しい経験と刺激・下半身を中心とした筋力トレーニングによる脳への刺激が有効である事の実証例」としてテレビ番組でも紹介されたという。また、きんさん、ぎんさんは、「マスコミで取り上げられ始めたころは全白髪であったが、メディアに取り上げられるにつれ黒髪が増えていった」とも言う。

きんさんのトレーナーを行った久野接骨院院長・久野信彦氏は、「きんさんはハムストリングス強化運動と呼ばれる筋肉トレーニングなどを行い、下半身の血管を刺激するミルキング効果を向上させることで、血液循環が良化し、認知症改善につながった。」(『老筋力』祥伝社)と語っている。

合気道は勝負がないので、稽古相手と争うこともほとんどなく、一般的には、勝負で勝たなければならない稽古事よりも緊張度が低いと言えるだろう。しかし適度の緊張の下、技を掛けたり受身を取ることによって、下半身のみならず、身体全体の筋肉を使い、筋肉トレーニングをするので、それが身体中の血管を刺激し、血液循環をよくするから、認知症(ボケ)になり難くなるはずだ。実際、顔のつやとか肌の色などが、稽古の前と後では全然違うことを見ても、そのミルキング効果は分かる。

これに加えて頭を遣うともっといいだろう。後期高齢者で頭がしっかりしていて活躍している人は、体を遣い動かしてもいるが、頭も遣っている。見ていると、体は少しずつ動かなくなり運動機能は低下するが、世間で活躍している後期高齢者の頭は身体の衰えに似合わずしっかりしているようだ。合気道の稽古でも、身体の衰えを避けるだけでなく、頭の衰えもこないように、頭を働かせるべきであろう。

そのためには、合気道を更に深く探求することであろう。スポーツのごとく、敵は他人ではない。敵、つまり戦う相手は、自分自身である。最高の敵としての自分に勝つ、最高の自分を育てるべく、日夜考えることが頭を遣うことになる。ボケなどといっている暇などないはずである。

ボケないためにも、合気道で身体と頭を鍛えようではないか。