【第129回】 リラックスが大事

体力、回復力、エネルギーのある若いうちは自分の限界を知り、その限界をレベルアップするために、多少苦しくとも、辛くても、我慢して稽古すべきであろう。楽をする稽古をしたら、心からの満足は出来ないだろうし、後できっと後悔するはずである。自分の限界までやらなければ、自分の限界、つまり自分は何処まで出来るのか、何処から先は出来ないのかが、分からない。自分の限界は自分しか分からないし、自分で見つけるほかない。

自分の限界が分からず、自分の出来ることと出来ないことが分からなければ、今後、自分がどんな稽古をし、どう生きていけばいいのか、分からないはずである。そして、自分を過大評価するか、過小評価してしまい、稽古も生き方も間違った道を進むことになりかねない。

けれど、高齢者になっても若者と同じように、力みながら技をかけたり、鍛錬棒を振ったりしているのを見かけると、体を壊さなければいいがとハラハラする。高齢者は若いときのようにやっても、筋肉や力がモリモリと付くわけではないのだから、むしろ自然に即した、高齢者に相応しい身体遣いと稽古をすべきだろう。自然に逆らうのは、上達を阻害するだけではなく、体を痛めることにもなり、結局は稽古を長く続けることができないことになる。

高齢者にとって大事なことは、若いときのように無理してまで頑張って、筋肉をつけたり、スタミナをつけることではないだろう。今までに稽古と人生で培ったものを統合し、集大成していくことの方が、大事だろうと考える。そして、その統合した力で技を遣う稽古をし、その統合力を質・量ともに洗練していくことであろう。

この修行には終わりがない。時間を掛ければ掛けるほど完成に近づくことができるはずである。そのためには怪我や病気をせず、健康で、少しでも長く稽古を続けるようにしなければならないことになる。

健康でいるためには、稽古も健康的な稽古をしなければならないだろう。高齢者が健康的な稽古をするには、あまり激しく動きまわるのは避け、無駄な動きや考えを無くして、力まずリラックスしてやるのが大事である。余計な事を考えて力むと、筋肉が硬くなるだけではなく、心臓にもよくないし、脳の過労にもなるだろう。

激しい運動をすると血液の流れは早くなるが、毛細血管の血液循環をよくすることはできないという。これに対し、人体がリラックスしている状態では、毛細血管の血流量が30%も増加するのである。体の隅々まで行っている毛細血管に、これだけの量の血液が行ってくれれば、老化が進む手足の末端も動いてくれるだろうし、反応が鈍くなってきている頭も働いてくれることになるだろう。だから、リラックスは健康によいということになる。健康で長生きできるだろうし、合気道の稽古も長くできるようになるので、合気道をより深く悟ることができるようになるはずである。

リラックスは大事である。特に高齢者には必要であるようだ。