【第122回】 童心に帰る

人は年を取れば取るほど、個性も顕著になり、味が出てくるように思える。テレビや雑誌などに出てくるような有名人は勿論のこと、一般人でもそう言えそうだ。

魅力的で個性的な高齢者には、大体、二面があるようだ。一つは、長年の人生で培った、揺るぎない実力と自信。もう一つが「童心」である。

「童心」というのは「わらべのこころ」ということであり、つまりは素直なこころということであろう。周りを気にせず、損得や利害など関係なく、笑うときには笑い、泣くときには泣く。人の行為や言葉に感激し、自然や音楽・絵画等に感動する。また、これまで出来なかったことが出来たことを素直に喜ぶ、等であろう。

合気道の稽古を続けていく高齢者にも、この二面は必要であろう。自信が持てるような実力と、素直な心の「童心」である。稽古を長く続けなければ実力はつかないだろうが、長くやったから上手くなるものでもない。上手くなるように、長く修行を続けることである。

素直な童心になるには、高齢者になったら、自分の生き方のルールややり方を変える必要があるようだ。それまでの競争社会で身を覆っていた鎧を脱ぎ捨てなければならないだろう。損得や利害の価値基準を取り去らなければならない。一度に変えるのは無理だろうから、少しずつ、反省しながら変えて行けばいいだろう。損するとか得するとか、また儲かるとか儲からないとかを考えないようになれば、昔そうであった童のこころに戻っていけるだろう。61歳になると還暦といって、若返りを大事にする習慣がある。この若返りは、肉体的なことではなく、こころの若返りのはずである。

幼いこどもは、損得や利害の価値基準を考えず、素直に笑ったり、泣いたりする。自分に素直だからであろう。還暦を迎えたばかりの新米高齢者は、なかなかこのような無意識の子供帰りは難しいだろうから、初めは意識して素直になるようにしなければならないだろう。まずは自分に対して素直になるよう、次には人に対して素直になる、その次には自然に対して素直になる、そして宇宙に対して素直になることであろう。そうすれば宇宙から、自然から、人から、そして、自分自身から、沢山の知恵とエネルギーを貰うことができるはずだ。これは、素直な幼い子ども達の姿をみれば分かるし、素直な子どもたちと損得や利害の価値基準で生きている大人と比較してみれば、一目瞭然であろう。