【第114回】 宇宙センス

今、地球では人がどんどん増えており、人口の増加に食料品の増産は追いつかず、満足に食べられないで多くの人が餓死している。多くの国で米や麦など食料の輸出を禁止したり、輸出に関税を掛けるようになってきた。お金があっても食べるものが手に入りにくくなってきているし、食料の争奪戦はますます激しくなることだろう。豊かな国と貧しい国の格差はますます広がっている。ビジネスの世界でも、グローバル化した厳しい競争になってきている。お金があるもの、力があるものが、ないものを凌駕することになる。多くの心ある人は、何とかしなければならないと思っているが、なかなかその解決法を見出せないでいる。

開祖は、最早、モノの世界、魄の世界から、精神世界、魂の世界に変わらなければならないと言われていた。モノ、魄に精神(こころ)、魂が動かされるのではなく、精神(こころ)、魂がモノ、魄の上に来て、それを制御するようにしなければ、いい世の中にならないという。

合気道の稽古でも、まずはじめに魄の稽古をして体を鍛え、技を磨くが、腕力や体力に頼っているだけの稽古をしていては、上達に限界がくる。これでは物質文明社会と同じように、争いが起こるし、腕力や体力には限界があるのだから、年を取れば衰えざるを得ない。年を取っても衰えることのない精神(こころ)、魂を主体とした稽古に、変わらなければならないわけである。もちろん体力がなければ稽古はできないから、いくら年を取っても体を鍛え続けることは必要であるが、それは従であり、主は精神(こころ)、魂である。

合気道は、精神を科学的に実践するものである。開祖は、「合気というのは、宇宙の気と合気しているのである。合気は天の科学である。精神科学の実践を表したものである。」と、言われている。

合気道では魄の稽古から精神、魂の修行に入るが、これを武産合気という。武産合気は宇宙とむすばれた武であり、「人間の愛を結ぶ武ともなる」と言う。武産合気、魂の修行は、宇宙の真理に合ったものでなければならないし、宇宙のひびきを五体に感じて修行しなければならないとも言われている。つまり、宇宙センスが必要になる。

人間は、地球の表面にへばり付くようにして生きている。今や、人類は地球を隈なく移動できるが、地球の上っ面を移動しているだけである。肉体的にはどんなに頑張っても平面的、閉塞的にしか生きることができない。また、肉体は常に地球上のほんの小さな一点にしか存在することができない。精々、寝たとき占める地球の面積でも、一丈というところである。肉体はその精神までも、平面的、閉塞的にしてしまいがちである。

高齢者の稽古は、この閉塞的なものから、開放的で自由な宇宙センスの稽古へと変わるべきであろう。稽古相手をやっつけたとか、やられたとか、強いとか弱いとかに気を使うのではなく、大きい宇宙を感じ、宇宙の法則を見つけ、それを技に表すことに、精力を使うようにすべきであろう。若い時は誰でも、自分を中心にすべてが回っていると思うものだが、高齢者になったら、宇宙の彼方から地球の上にへばりついている自分を見てみるとよい。自分がどうすればいいのか、分かるのではないか。

科学の進歩で、既に何人かが宇宙飛行士として、地球を離れ宇宙に飛び出していった。少しの時間しか地球を離れていなかったにもかかわらず、宇宙飛行士のほとんどが人生観や価値観が変わったと言う。地球上で生きる上で大事だと思っていたことに、あまり価値がないと考えるようになり、これまで価値を置かなかったものに価値を見出すようになったというのである。当分の間、ロケットに乗って宇宙に飛び出すのはふつうでは出来ないことだろうから、合気道の武産合気を稽古して、宇宙センスを身につけ、そして宇宙センスで生きていくのがいいだろう。

参考文献  「合気道新聞」