【第84回】 抗力

合気道でも、技をかけるときには力が要る。しかし、使う力が通常の質のものでは、相手の力と同質になるわけなので、争いのもとになってしまう。相手と争わない力は、通常のものと異質のものでなければならない。

相手に技をかける場合、ほとんどの場合は手を使うので、如何に手先に大きく、良質の力を伝えられるかが重要になる。このためには、力(エネルギー)を最大限に取り入れること、その力を手先まで通す体であることが重要である。

力は、自分の体重と引力とスピード(勢い、拍子)であると言える。手先を振り回しただけの力は、あまり強くない。合気道で使う力は、自分の体重で地を圧し、それに反撥してくる地球の中心から来る抗力を使わなければならない。 体重で地を圧するとき、体重が複数に分散して地を圧すのでは、強い抗力は出てこない。それ故、一点に集中しなければならない。そのためには、重心(人の重力の中心で仙骨の二番目付近にある)を地に着ける踵の真上に載せるようにするのである。通常、立ったときは三本の軸になり、体重も3つに分散されるが、これを一本の軸にし、体重を一点に集中するのである。そうすれば体重と地球の引力からなる非日常的な抗力が得られる。力は"地から"、ということである。

この三本の軸を一本の軸にし、踵の軸に移動して合わせると、強力な抗力が来るだけではなく、手足を動かすより俊敏に動くことができる。太刀や短刀などの武器に対しての入身などは、この移動なくしては出来ない。

この軸の移動がスムースにいき、完全に重心が踵にのるためには、股関節が柔軟でなければならない。それには、股割り運動や四股を踏むとよい。特に四股を踏むときには、重心が踵に完全に載らないと体勢が崩れて、足が上がらないことがわかるだろう。重心が踵に十分載り、重心が沈むと、抗力が出てきて、足が自然と上がるのである。

強力な抗力が来たら、その力を手先に伝えればいい。そのために注意することは、その力を腰、背中、胸鎖関節、肩甲骨、上腕、手先と体の表を流れるようにし、肩を貫き、体を捻らないことなどである。