【第82回】 体三面にひらく

何事もはじめが肝心である。合気道の稽古では相手と組んで形(かた)と「わざ」を磨いていくが、そのはじめは相手にたいする構えである。

合気道の構えは「半身」というが、相手に向かって足を前後に開き、前足のつま先は相手の中心を向き、後足は前足とほぼ直角となり、前足の踵が後足の中央線上(土踏まずの辺り)にくる。そして顔とへそは相手を向き、前の肩を引く構えである。(写真参照)

「半身」は合気道の構えであるが、この他の構えとして、相手に対して完全に横向きになる姿勢の「一重身」、正対姿勢の「向身」などがある。「半身」は多人数に対する構えといわれ、常に多人数を相手にしているつもりで稽古しなければならない合気道には、最も相応しい構えである。これは三角法である。

この構えがしっかりできていないと、しっかりした「わざ」(業と技)の稽古はできない。入身で相手の死角に入ることも、捌くことも、一足ではできなくなる。また中心がずれてしまうので、こちらの力が相手に十分伝わらないし、逆に相手の力を受けると支えきられずに、ふらついてしまうことになる。

「半身」でもう一つ大切なことは、気持ち(気)を出して、相手の中心にぶつけることである。これがないと「半身」の構えは生かされず、ただの木偶の坊となってしまう。しかし出す気持ちは、相手を倒してやろうとか、やっつけてやろうという殺伐としたものであってはならない。そういう気を出すと相手は必ず反抗心や対抗心をもってかかってくることになり、争うことになってしまう。

合気道の構えは「心をまるく、体三面にひらく」という。開祖がよく言われていたことである。開祖は「心をまるく 体三面にひらくのじゃ」といわれてから演武をされていたものだ。体を三面(半身)にひらいてから、くるっと円を描くように一回転し、それから「わざ」をされていた。気持ちは相手を倒してやろうというようなものは感じられず、開祖に呼ばれて受けをとる人も敵意や抵抗心をもたずに、自ら満足して倒れていたようなので、そのときの開祖の心が「まるい」心なのだと思われる。

稽古事はなんでも、形(かたち)と心の持ち方が大切である。形ははじめの形があり、終わりの形があり、途中の形がある。注意しないとどうしても終わりの形、つまり投げたり、抑えたりすることだけで帳尻を合わせてしまいやすい。しかしはじめが肝心なのだから、はじめの形とこころ(気持ち)ができていなければ、その後は上手くできないわけである。まず「心をまるく 体三面にひらく」ことから始めてみるとよい。