【第74回】 重点的に見る

開祖の動きもそうであるが、名人、達人の動きはなかなか見取れないものだ。終わったあとで、すごかったなあとか、素晴らしかった、よかったで終わってしまいがちである。あとでなぞってやってみようとしても、なかなか思い出せないものだ。しかし、はじめはこれでいいと思う。見取るだけの能力がないのだから仕方がない。自分のレベル相応にしか相手が見えないわけだから、見る側とのレベルの差が大きければ、見えるわけがない。

しかし名人、達人のもの、よいものは、見取れなくとも、分からなくとも、なるべく多く見るべきである。何故ならば良質なイメージを持てるからである。イメージというのは強烈な力(エネルギー)を持っていて、なにかやろうとする場合に、進むべき確かな方向を示してくれ、ゴールはこうあるべきだと教えてくれるものである。

開祖はすでに亡くなられているので、開祖を知らない人が開祖の動きや技を知るにはビデオやDVDの映像を見るしかない。
合気道を本格的に修行しようとする者は、開祖の映像を何度も見て、合気道を研究しなければならない。しかし、 ボーっとながめるだけでは駄目である。イメージはできるが、大事なことが見えないからである。

映像を見て、成果を上げるためには、まず問題意識をもって見なければならない。次にすべてを見るのではなく、的を絞って、重点的に見ることである。例えば、手足の動きがどうなっているのかとか、重心移動がどうなっているのか、肩の使い方がどうなっているのか等々と見るのである。

自分が稽古していると、どうしても上手くいかない場合がある。上手くいかないのには原因があるので、その原因を見つけ、その原因を取り除くことが必要である。原因を見つけるのも大変だが、それを取り除くのはまた大変である。このため開祖がどうされていたのか、その一点に重点を絞って映像を見れば大いに参考になるはずである。

映像だけでない。演武大会における演武、見取り稽古、あるいは街中での人の動き等を見る場合にも、全体をぼうっと見るより、問題意識を持って、重点的に見るとよい勉強になるだろう。