【第71回】 他人に期待しない 〜主体は自分〜

合気道の稽古は二人で組んで、形を通して技を磨いていく。稽古の相手はいろいろである。素直な人もいれば、頑張るのが好きな人もいる、上手な人もいれば、技も満足にできない人もいる。

稽古はよほど注意をしないと、相手に左右されてしまう。まず相手が大きいとか力が有りそうだとか、外面的なことに捉われがちである。そして相手によっては、これはとても敵わないと、気持ちが引っ込んでしまい消極的な稽古になってしまう。

さらに、相手の受けに期待してしまいがちである。初心者のときには相手が受けをとって形を導いてくれるが、稽古年数が経ってくると、相手は思うように受けをとってくれなくなるものだ。すると、自分の技はどうしても相手の受け次第、相手次第となってしまう。形は相手に関係なく、正しい軌跡と拍子で動けなければならない。そのためには、一人で動いても正しく動けなければならない。特に、坐技での手足の使い方は難しい。

また、相手と組んで形の稽古をすると、相手を杖(つえ)として寄りかかってしまい、相手を崩すどころか安定させてしまうことになりかねない。

合気道では、宇宙の中心に立って仕事をしなければならないと言われる。従って、相手に左右されたり、相手の周りをまわるのではなく、自分の動きの中に相手を巻き込んで、自分を中心にして相手を捌かなければならない。また、相手が倒れてくれるのを期待するのではなく、倒れるよう、倒れるまでやらなければならないのだが、もっとよいのは、相手が必然的に倒れざるを得ないように技をかけることである。

今の世の中は、他人任せが横行している。街では、歩行者は車は止まると思って、よく見ないで道をわたるし、車の方は歩行者が止まるものと思って走っていて、お互いが相手に期待するので、事故が起こってしまうことになる。仕事でも、これは相手がやるだろうと思い、相手もそう思っていると、その仕事は処理されないままになり、後で問題になったりする。

少なくとも合気道の修行、道場の稽古ではやるべきことはきちっとやり、他人に期待せず自分主体でいかないと、上達はないだろう。