【第652回】  形稽古の稽古法

相手を投げたり、抑える稽古を続けていては上達は無い。上達が無ければ稽古は続かない。
人は変わらなければ、つまり、上達や進歩や発展がなければ、やり甲斐、引いては生き甲斐を失うものである。この問題は、今の日本の問題であるが、合気道の問題でもあるように思える。

それでは合気道で変わるため、上達や進歩や発展をするために、どのような稽古をすればいいのかを考えてみることにする。
そのための稽古のやり方は、稽古の段階によって違うと考えるが、大きく2つの段階で考えてみたいと思う。

  1. まず、初心者の段階である。入門したての頃は、何も考えずに稽古を続けていても、どんどん変わっていくので問題はない。しかし、それが段々とマンネリ化してきて、いつかそれまでのような上達はなくなってくるものだ。
    しかし、初心者なので、自分でその打開策を考えることは無理だが、一つできることがある。それは私自身がやってきたことなので、一つの例になるだろう。
    それは、自分の得意技を、自主稽古で毎回やるのである。私の場合は四方投げであった。1,2年毎回(毎日)稽古した。先輩に投げてもらったり、同輩と掛け合ったりしたのだ。お陰で四方投げは、得意技になった。
    得意技のレベルアップをすると、他の技も、このレベルに近づけないと満足できなくなり、他の技のレベルアップをすることになる。勿論、時間は掛かる。終わりもない。
  2. 10年、20年と稽古をし、受け身も覚え、基本の形を覚え、力もつき、ある程度、稽古相手を投げたり抑える事ができるようになると、段々とそれまでのような上達は止まり、そして壁にぶつかってしまうものである。多くの古参の稽古人は、上達が止まったここで悩み、最悪の場合、稽古を辞めることになるのである。私の感じでは、長年稽古をして止めてしまう最大の原因はこれだと思う。
    そこで、どうすればいいのかということになるわけである。
    いろいろあるが、今回は誰にでもできる稽古のやり方を紹介する。
    それは「テーマや課題を決めて稽古する」ことである。例えば、手を左右陰陽で規則的につかう事。それがある程度身に着いたら、今度は、足を左右陰陽で規則的につかう事。それが出来るようになったら、今度は手と足を一緒に左右陰陽で規則的につかう事。
    また、手を十字に使う事。足を十字(撞木)でつかう事。腰を十字に使う事等である。
    更に、手刀で技を掛ける事。肘を支点として技をつかう事。イクムスビ、阿吽の呼吸の息づかいの稽古等々幾らでもある。

    このようなテーマや課題を先生や先輩が教えてくれればいいが、それがなければ、自分で見つけていかなければならない。そのための一つのいい機会は、相対稽古で技が上手くいかなかったり、失敗したときである。その失敗を意識にとどめ、その原因を見つけ、その解決法を見つけていくのである。モノによって簡単に解決できるものもあるが、数日、数週間、数年掛かるモノもあるはずである。問題に挑戦している事は、自分の上達・変化を目指していることになり、自分に満足できるはずである。
    また、その問題が解決できれば大上達であるが、問題を見つけただけでも大進歩である。何故ならば、問題を意識した時、9割は問題解決していると言っていいからである。問題を問題と意識しないことが問題なのである。

    前にも書いたが、過って本部道場で教えて下さっていた有川定輝先生の晩年の稽古は、必ず一つのテーマの下にやられていた。例えば、肘から先をつかう技づかいの稽古とか、手を手刀としてつかう稽古などである。
    有川先生は、このようにいくらでも、いつまでも違ったテーマで教える事ができたわけである。ということは、先生は何時も、いつまでも変わられ、進歩、上達、発展されたわけである。その意味で、既に亡くなられてしまったのは残念で仕方がないが、稽古を最後まで続けるためにも、先生を見習って、テーマをもった稽古を続けていけばいいと考えている。