【第641回】  入身

入身投げとか入身転換などという用語が合気道にはあるが、この「入身」ということを考えたり、意識して稽古する稽古人は少ないように見える。
今回は、原点にもどってこの「入身」を研究してみることにする。

「入身」がつかわれる最もポピュラーな技(形)は「入身投げ」であろう。入身投げが上手くいくためには正しく入身しなければならない。入身とは、字が示す通り「身を入れる」ということである。ここでの正しいという意味は、相手の死角(デスポイント)に己の身を入れなければならないということである。勿論、入身しただけではまだ不十分で、入身したら即転換が必要になる。入身と転換はセットになっており、それで「入身転換」となっているのであるが、今回は「入身」に焦点を絞り、転換は外に置いておくことにする。

「入身」には“裏の入身“と”表の入身“があると考えている。
“裏の入身“の典型的な技(形)は「入身投げ」である。相手の死角に入身する入身である。この”裏の入身“は、上手下手は別にして、誰もがやっている入身である。稽古を続けて行けば、身に着いていくようである。

次に、”表の入身“である。“裏の入身“も難しいが、この”表の入身“はもっと難しい。
”表の入身“でやらないと上手くいかない典型的な技(形)は正面打ち一教である。この正面打ち一教が難しい理由の一つが、この”表の入身“にあると思う。

”表の入身“とは、正面打ち一教の場合、相手が打ってくる手の下、懐=死角に真っすぐ身を入れることである。初心者は相手の打ってくる手を己の手刀で受け止めるわけだが、その相手の手を受け止めるところは、相手の力が一番強いところであるから、相手の力を制するどころか、抑え込まれてしまうことになる。

しかし相手が打ち下ろそうとしている手の下(懐)に入るのは容易ではない。安易に入っていけば、頭を叩かれたり、蹴とばされてしまうことになる。
”表の入身“のポイントは、阿吽の呼吸で身を入れることである。阿吽の呼吸によって、時間もない空間もない、宇宙そのままがあるだけの勝速日となって、相手の懐に入るのである。剣に対する無刀の剣捌きと同じ息づかい、「阿吽の呼吸」で入るのである。相手の抵抗もなく、スーと入っていけるのである。不思議、つまり通常味わえないような感覚になるのである。

“裏の入身“は稽古を続ければ上手く出来るようになるだろうが、”表の入身“は、次元を変えた稽古をしなければならないので難しいのである。また、これが合気道の難しさでもあると考える。つまり、更なる上達をするためには、次元の違う稽古に入っていかなければならないようだからである。