【第640回】
阿吽の呼吸で
これまで合気道の形稽古で、相手に技を掛ける際はイクムスビの呼吸でやらなければならないと書いてきた。イーで相手と結び、クーで相手を導き、ムーで相手を投げたり抑え込み、スーと離れて、ビー(ィ)でまた相手と結ぶのである。この「イクムスビ」は「生産び」であり、太古からの日本の教えであり、それを稽古するのが合気道である、と大先生は次のように云われている。「日本には日本の教えがあります。太古の昔から。それを稽古するのが合気道であります。昔の行者などは生産びといいました。イと吐いて、クと吸って、ムと吐いて、スと吸う。それで全部、自分の仕事をするのです。」(「合気神髄」P101)
合気道の呼吸には「阿吽の呼吸」という呼吸がある。阿と息を吸って、吽と息を吐くのだが、阿はただ息を吸うのではなく、息を体中に入れながら阿と息を出すのである。腹は締り胸中が広がるのである。これは仁王像を見れば良く分かるだろう。吽は胸中に拡がった息(気)を腹に吽といって凝縮するのである。これも仁王像によく表れている。
イクムスビの息づかいと阿吽の呼吸は、クーと阿、ムーと吽で似ているが、阿吽の呼吸はイクムスビとは次元も異なる呼吸だと見る。合気道を精進するためには、イクムスビの呼吸から阿吽の呼吸に変わっていかなければならないと思う。何故ならば、イクムスビの呼吸が、相対での稽古相手に技を掛けるための呼吸であるのに対して、阿吽の呼吸は、天地と結び、気を生じ、宇宙と結ぶからである。それをもう少し詳しく見てみよう。
- 阿吽の阿には天地と結ぶ力がある:
腹から下に降りる力と腹から上に上がる力を出す。つまり、阿吽の呼吸には一方的な働きではなく、相対する力が働くのである。これは、四股踏みをするとよくわかるだろう。
- 阿吽の阿からは気が出る:
阿と体中に息と気を満たすと、気が発散し、その気で相対する相手と気結びし、相手を自由自在に導くことができるようになる。これを大先生は、「阿吽の呼吸の気の禊によって生じた武の兆しは、世の泥沼から蓮の浄い花咲く不思議なる巡り合わせのように、不思議なる魂の花が開き、各自の使命の実を結ばせ、心で身を自由自在に結ぶ。(「合気神髄」P.95」と言われている。
- 阿吽の呼吸で宇宙と結ぶ:
合気道の目標は宇宙との一体化であるが、そのためには阿吽の呼吸が必要になるようだ。大先生は、阿吽の呼吸とは五体のひびきであり、この五体のひびきと宇宙のひびきが一体化することを相互交流といい、この変化が技の本になる、云われているのである。(「合気神髄 P.176」
- 阿吽の呼吸は魂の技を生み出す:
魂の学びである合気道を精進するには、魂の技を生み出さなければならないわけだが、魂の技は阿吽の呼吸でやらなければならないと、大先生は、「武産の武の阿吽の呼吸の理念力で魂の技を生み出す道を歩まなくてはならない。」と言われているのである。
気の妙用、魂の技、五体と宇宙とのひびきの相互交流と一体化などへ進んでいくためには阿吽の呼吸を身につけることが必須であると考える。
しかし、そのためにはイクムスビを先ず身につける事が必要だろう。
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