【第633回】  気を出す

正面打ち入身投げは基本技であるが、中々難しい。初心者は何とも思わずに、何の問題もなく、そして疑問も持たずにやっているが、幸せな時期である。

基本技には、身につけなければならない大事な基本があり、それを会得していくところに、基本技の意味があると思う。
基本技の大事は、技の名前にもある。例えば、この「入身投げ」である。入身して投げるということである。だから、きっちりと入身をしなければならないということで、入身が大事なのである。

入身とは、己の身を相手の死角に入れる事であるが、これが中々上手くいかないものである。大体は攻撃の相手の前面で止まったり、相手に己の腹を向けて、四つに組む形になったりしている。
そうなる原因は、簡単に言うと、まず、体(手と足と腹)を陰陽と十字に使わないことである。次に、息づかいがイクムスビになっていないことである。
この陰陽十字やイクムスビについては、これまで何度も書いてきたので、説明は省略することにする。

入身で相手の死角に入り、相手を導くために、もう一つ大事な要因がある。それは「気を出す」ことである。
入身するにあたって、クーで息を引きながら相手の死角に入るのだが、息をただ吸っているので、体が思うように前に進めず、完全に死角に入ることができないのである。

つまり、息づかいだけでは、体も十分に働かずに入身ができないのである。
それでは如何すればいいのかというと、「気を出す」のである。気を出しながら、息を引いて入身するのである。尚、息を吐いたら、相手も息を吐いているわけだからぶつかってしまい、魄の力になってしまうから駄目である。

息を引きながら「気を出す」ためには、通常の息づかいでは無理である。
その息は阿吽の呼吸である。阿吽の呼吸をつかわなければならないことになる。
阿吽の阿で気を出し、そして息を引いていくと、己の体から気が発散し、体は自由になり、そして受けの相手が誘われるように、こちらに進んでくるので、後は三角法で相手の側面に入ればいい。

この正面打ち入身投げがきちんとできると、太刀さばきや杖さばき、それに短刀取や拳の突きなども捌くことができるようになる。逆に言えば、正面打ち入身投げが、きちんとできなければ、太刀さばきも太刀取りもできないということである。

最後になったが、「気を出す」ということである。「気を出す」ためには、気を感じられなければならないだろう。
私が気を感じることができたと思った方法を紹介する。
息を一寸吐いて手の平を開くと、気が手先から発散していると感じる。
次にその状態で息を思い切り引くと(吸う)、手の平が大きく開き、開いた手から更に気が出ていると感じる。
更に、息を引いて思い切り開いて気が出ている手に、息を吐きながら手の平を更に開くと、更にその開いた手から気がでていると感じる。
気が難しければ、気持ちに置き換えてもいいと思う。いづれにしても、気というエネルギーが出ることは感じられるし、何よりも、入身投げでも太刀さばきでも、この気が出ると出ないで、入身が出来たり出来なかったりするので納得できる。
とりわけ、太刀さばきでは、気によって太刀を自由自在に捌くことができるのが実感できる。気によって、息も体も自由自在になるのである。逆に、気が働かなければ、息も体も自由に動けないのである。切られてしまう事になる。
先ずは、気を感じ、信じ、そして「気を出す」ことが大事である。