【第602回】  合気道の稽古は別次元で

合気道の修業の目標は宇宙との一体化であるといわれる。スポーツのように人間が対象ではなく、宇宙が対象なのである。誰が考えても容易でないことがわかる。
この対象に少しでも近づくべく、合気道は相対での形稽古を通して技を練り合う稽古をしているが、稽古をよほど真剣にやらなければ、この目標には近づけないはずである。

この稽古の目標である、宇宙との一体化の一体化する宇宙は、見える世界の宇宙ではない。小戸の神業とか山彦の道などといわれるように、言霊の世界であり、目に見えない世界である。非日常世界であり、別世界である。

従って、合気道の稽古は、非日常世界、別世界でやらなければならないことになる。俗世の気持ちや、日常的な感覚で稽古をしても、目標に近づくことはできないので稽古にならない。顕界でなく幽界でやるのである。

目に見える日常世界の顕界から別世界の幽界に入るためには、まず儀式が必要である。例えば、道場に入る際の礼、先生に対する礼、稽古相手に対しての礼などである。儀式によって俗世を断ち切るのである。

次に、技を練り合う稽古において、どんどん別世界に入っていくようにしなければならない。
そのためには、まず己の体と心を見つめ、そして対話をすることである。体も心もこうやっては駄目だとか、こうやった方がいいとか、それはいいとか悪いとか言ってくれるので、その声を聞きそれに従うのである。その声を聞かなかったり、無視すると技が上手くいかないだけでなく、体を壊すことになる。
まずは己の体と心の対話の世界をつくることである。日常生活では、体も心も己のもので、自分の思うままに働いてくれると思っているだろうが、どっこいそうはいかない。体など完全に借り物である。その証拠に、あちらに行くときは、お返ししなければならない。

次に、イクムスビの縦、横、縦の息づかいで技をつかうことである。息と気で天と地とも結ぶことになり、別世界、別次元に入ることになる。特に、クーで息を入れる際、弓を引く要領で息を腹中(腹と胸)一杯に入れると、宇宙の気が入ってくるのである。宇宙の気(エネルギー)が体に入り、俗な体が別次元の宇宙の体に変わっていくわけである。
息づかいによって、別世界に入っていきやすいということである。

合気道の稽古は別次元、別世界でやらないと、精進は難しいはずである。