【第599回】  課題をもって

合気道は形稽古で技を錬磨しながら精進していく、素晴らしい稽古システムである。このシステムで老若男女、容易に誰でも稽古ができ、上達していくことができる。
しかしながら、容易な上達もある時点までで、その後の上達は非常に難しくなる。合気道では、すべてのものには表と裏、陽と陰の両面があると教えられているわけだが、これも正しくそれである。

初心者は、これまでのように形稽古を続けて行けば上達するものと信じて、稽古するが、必ず壁にぶつかることに気が付かないものである。そして稽古をこれまでのように続けていけばいいだろうと稽古するわけだが、その稽古はマンネリ化し、そして自分のやりやすい方に行ってしまうことになる。

壁にぶつかったら、原点に戻ることである。合気道とは何か、自分の合気道とはどうあるべきか、己の目指す合気道の目標とは何か等を改めて考えてみることである。

目標がなければ物事は達成されない。合気道でも目標がなければ真の稽古にならないし、合気の「道」の稽古をしていることにもならない。目標があってはじめて自分と繋がる道ができるのである。

合気道の目標は、大きく次の3つに分ければいいだろう。

最終的な目標は例えば、開祖が云われておられる、“宇宙との一体化”等であり、中間目標は“魂の学び”“気魂力の養成”“小戸の神業”等であり、直近の目標は数限りなくあるが、例えば、宇宙の営み・法則に則った技と体をつかう事である。陰陽や十字である。

目標達成のためには必ずそこに立ちはだかる課題が表れる。そしてその課題を解決し、そこを突破しないとその目標、次の目標に進めない。例えば、最終的目標の“宇宙との一体化”を目指しても、そう簡単にはそこに辿り着けない。やらなければならない課題が沢山あり、それをひとつひとつ解決し、突破していかなければならない。まずは中間目標の課題を解決しなければならし、その中間目標を達成するためには、直近の目標を解決しなければならない。

従って、最終目標に到達するためには、直近の課題を一つずつ処理しなければならないことになる。
例えば、この直近の陰陽・十字の法則を身につけていくことである。技は陰陽・十字に掛けていかないと効かないはずなので、相対での形稽古での課題ということになる。自由に好き勝手に技をつかい、体をつかうのではなく、技と体を陰陽・十字につかうのである。つまり、陰陽・十字の形に己の技と体を組み込んでいくのである。
これが道場での相対の形稽古の直近の課題であり、この課題をもって稽古をしなければならないと考える。

道場での稽古の前の準備運動でも、形稽古と同じように、この直近の課題をもってやらなければならない。手首の柔軟運動でも陰陽・十字でやるのである。課題を持たずにただやっても柔軟運動にならず、無駄になってしまう。

更に、この直近の課題の陰陽・十字は、自主稽古での木刀の素振りや杖の素振りでもやらなければならない。足が右、左と陰陽でつかうこと、手も右、左で陰陽につかい、また、息に合わせて、手を縦(上に上げる)、横(胸を開く)、縦(更に天に上げる)、そして振り下ろしてつかうのである。足は撞木で常に両足が十字になるようにつかうが、杖の突きの素振りの足も、常に十字になるようにするのである。

直近のこの十字の課題をもって稽古をしていくと、道場の外でもその課題を意識するようになる。街を歩いても、足と手がナンバで陰陽に働くと同時に、足が撞木の十字で歩くようになるし、そうならなければならない。

課題を持ってやるかどうかで、上達の有無が違ってくるはずである。