【第581回】  日に新しく進んで向上

入門した当時は大先生のお話をよく伺ったものだが、お話が難解であったことは勿論のことであるが、不謹慎にも、時として疑問に思ってお聞きしていた。
その疑問も今やっと少しずつ溶け始めてきたようだ。

その疑問だったことの一つに、技も合気道も変わっていかなければならないということがあり、このように言われていた。「合気道は、周知のごとく年ごとに、ことごとく技が変わっていくのが本義である」(『合気真髄』
我々としては、合気道も技もすでに定まって不変であり、正しいプロセスを踏めば誰がやっても同じ結果がでる科学であると思っていたので、疑問を持ち、頭が混乱したわけである。

合気道の稽古を続けてきたお蔭で、その意味が少しずつ解るようになってきたし、変わっていかなければならないと思うようになったし、変わる稽古をしていかなければならないと思うようになった。

合気道の目標は宇宙との一体化である。宇宙は138億年前に出来た時から、現在、そして未来に向かい、宇宙の完成に向かい生成化育を繰り返しているわけだから、一体化を目指す我々も己の完成、万有万物の完成に向かって変わっていかなければならないことになる。
それを開祖は、「日に新しく日に新しく進んで向上していかなければなりません。それを一日一日新しく、突き進んで研究を、施しているのが合気道です」(合気神髄 P.101)とも言われている。

更にどのようにすれば変わっていけるのかを開祖は、「ゆえに我々は宇宙の万有万神の真象を、よく眺め腹中に胎蔵して、それを土台として、自己を悟り、開眼し、行をおこない、反省して、絶えず自己を鍛錬、向上することを怠ってはならない。その結果は身心一如、調和した五体を発展さすことができる。」(合気神髄 P.106)と言われているのである。

変わるという事は、「日に新しく進むこと」であり、向上、上達ということになる。人の本能は、皆変わりたいと思っていることであり、いい方に変わろうとすることであると考える。いい方に変わるとは、向上や上達であり、そして宇宙の生成化育、宇宙完成をお手伝いするということである。

合気道で「日に新しく進む」ためには、毎日稽古をしなければならないことになる。しかし、勤めがあったり、出張などあればそれは中々難しいだろう。
とりわけ、道場に毎日通うのは難しいはずである。
それならば、毎日出来る稽古を自分でつくってやればいい。家の中で5分でも10分でも、効果のある稽古法を考えてやるのである。木刀でも徒手の素振り、四股踏み、柔軟体操など何でもいい。大事な事は、毎日やることである。
毎日やっていると、毎回、必ず新発見があるはずである。ほんの些細な発見であろうが、これが重要なのである。そしてまたこの習慣が身に着くと、街を歩いていてもいろいろな発見をするようになるものである。
つまり、この新しい発見が「日に新しく進む」であり、向上、上達だからである。また、この発見を道場での相対稽古で試せば更なる向上、上達になる。

変わらない、変われないほどの不幸はないだろう。どんなに財産や名誉を持っていても、そこから変わらなければ幸せにはなれないだろうし、どんなに合気道の技が上手く、強くとも、そこから変われなければ満足できないはずである。宇宙の営みに反しているわけだからである。宇宙も人も「日に新しく進んで向上」である。