【第568回】  上達とは

合気道は形稽古を通して上達していくが、なかなか上達しないものである。5年、10年ぐらいまでは、稽古を続けて行けば上達できるのだが、20年、30年になると上達は止まってしまうように思う。何故そう思うのかというと、自分の廻りの後進や先輩を見ているとそう見えるからである。更に、自分自身がそうであったからである。

問題は上達していないことに気づかない事であり、また、上達とはどういう事なのかが分かっていない事である。上達の意味が分からなければ、上達のしようがないわけである。
20年、30年と稽古をしていけば、以前より稽古相手を投げたり、決めたりすることは容易にできるようになるだろう。それを上達したと誤解してしまっているのである。だから本当の上達ができないのである。

上達とは目標に近づくことである。例えば、合気道の修業・稽古の目標は宇宙との一体化であるとすれば、ここに通じる道を進むのが合気の道であり、一歩前進、つまり目標に一歩近づくことが上達ということである。

それでは合気道の形稽古で、一歩前進、上達とは具体的にどういうことなのかというと、技の中に宇宙の法則を見つけること、その法則を技に取り入れてつかえるようにすること、そしてその宇宙の法則を身に着けることである。これを技の錬磨といい、宇宙との一体化に進むということになるのである。
宇宙の法則が一つ一つ技に入り、身に着いていくことによって、宇宙に近づいていくわけである。そしていつの日か、宇宙人になれる可能性ができてくるのである。

因みに、前者の誤解の上達は、量的、世俗的、相対的上達であり、後者の上達は質的、宇宙的、絶対的な上達であるといっていいだろう。
5年、10年の稽古は、腕力や体力の魄の稽古、目に見える世界での稽古、相手との相対的な稽古なので、己の上達は容易である。
しかし、20年、30年と稽古をして上達していくためには、目に見えない世界での稽古、己自身との戦いの稽古、絶対的な稽古をしていかなければならないことになると考える。
この切り替えが難しいのである。