【第55回】 技が利かないのは

合気道の道場での一般的な稽古では、二人で組んで、一方が相手を取りにいき、他方がそれに対して技をかけ、取りにきたほうが受けをとるという稽古を交互に繰り返す。先生が稽古をする形を示してくれるので、技を掛ける方でも、取りにいって受けをする方でも、お互いがどう動くのかを知っている。よほど下手か間違った技をつかわなければ、受けは素直に受けをとってくれるので、技はかかったように思ってしまう。

合気道は、武術の時代を経て、武道、そして武産合気となるわけだが、合気道の中には、武術、武道としての要素、つまり、相手の攻撃を制する技が含まれていなければならない。取りにきた相手を投げたり、押さえたりするのが合気道の最終目的ではないかもしれないが、まずは、取り(攻撃)を制することが出来るようにならなければならない。

先生が示した形を稽古するにあたっては、技が上手く効かないことが多くあるはずである。というより、技が完全に効いたり、決まることはまずないと言った方がよい。技を完全に効かせ、決めるためには、気の遠くなるような多くのファクター(条件)を満たさなければならないし、人間がこのすべてのファクターを完全にマスターするのは絶対に不可能であるからである。従って、稽古は、すべてのファクターの把握は不可能と知りながら、そのファクターを少しでも多く自得することにあるわけである。

技が上手く効かない原因にはいろいろあるが、まず、相手の取りにきた手や肩を押さえられ、自由に動けなくなる場合がある。これは相手の押さえている力が強いわけで、押さえられた部位は動かないのだから、動くところを動かせばよい。原則として、押さえられている部位は支点とし、動かさないようにする。ここを動かすと、力みが出て争いになる。取られて動かない場合は、対極を動かすことである。例えば、左の肩を押さえられている場合は、先ず、左肩を支点とし、右肩から動かせばいい。そしてその後、右肩を軸にして左肩で技を効かすのである。

次に技が効かない典型的なケースとして、四方投げなどで上げようとした手が相手に抵抗されて上がらない場合である。原因はいろいろあるが、最大の原因は足が居ついて、手で上げようとするから、相手とぶつかって上がらなくなるのである。だから、大事なのは足を居つかせないことである。足は左右と規則正しく交互に動かなければならないのであるから、ぶつかったと思ったら反対側の足を進めてみることである。技は足で掛けるといってよいほど、足の動き、捌きは大切である。技が上手く掛からないことに共通する最大の原因は、足が居ついてしまって、左右交互に規則的に動かないということが出来るかもしれない。

また、一教裏で相手を崩せず、頑張られてしまうことがあるが、この場合はぶつかった手と反対の手を使うといい。手も足も、左右交互に陰陽で使わないと技は効かない。一般にいえることだが、はじめに受けた手で相手を押さえようとするので、相手が崩れてくれないのである。一教の手は「汽車ぽっぽの手」でなければならない。右を使ったら、次は左と交互に使えということである。勿論、手と足が連動して働かないと技は効かない。

技が効かない理由は数限りなくある。その理由を追求し、それを自得してはじめて、技は効くようになるのである。ただ漠然と何度も繰り返せばいずれ技が効くようになるということはない。相手に押さえれて動けなくなり、思うように技が効かないことに目をつぶることなく、それを真摯に受け止め、真剣にその原因を追究し、技を自得していかなければならないだろう。それが稽古である。