【第51回】 武器の使い方

合気道は攻撃のための技を学ぶものではない。演武や審査の時には木刀、短剣、杖などの武器を使って攻撃をするが、この武器による攻撃が主体ではなく、主体は武器の攻撃からの受けである。武器の攻撃を上手く受けるためには、その武器を使いこなしていなければならないので、つまりは武器の扱い方も稽古を十分しなければならないことになる。木刀や杖の素振りもできないのに、それを受けることなどできるわけがないからである。

合気道をはじめると、ほとんどの人は木刀や杖を振りたくなるようである。昇段審査に太刀取りや杖取りの技があることもあるが、武道をやっていると、自然に武器に興味をもつようになるのである。逆にいうと、もし、武器に興味を持たないようでは、合気道の体術の上達はあまり期待できないだろう。

しかし、剣や杖を継続して稽古する人は少ない。その原因は、合気道で剣や杖の素振りの稽古法、剣や杖のふり方を教えてくれる合気道家が少ないことと、武器による稽古の意味が分からないためであろう。また、自己流でふって、無理して肩を痛めてしまう人もいる。

合気道家がどんなに剣や杖を振り回して稽古しても、剣道や杖道をやっている人たちには及ばない。合気道でも杖や剣を稽古すべきではあるが、合気道としてやらなければならない。合気道の上達のための稽古の仕方、振り方があるはずである。つまり、合気道の基本は体術であるから、体をつくり、体術に役立つ振り方をすべきである。

木刀を振るにも、肩を貫(ぬ)いて振れば、素手でやるより肩を貫くことの重要さが分かりやすいし、素手で振るよりも効果は大きい。また、木刀を持つ手の形は、体術で相手に持たせる手の形であり、差し出す手の形もでき、また小指の締めの重要さも分かり、小指の締めの稽古にもなる。脇を締めるのは重要であるが、体術でよりも剣を振った方が実感しやすい。体を捻らず面として使うことや、肩を陰陽に働かすこと、体の表を使うこと等、体の使い方も分かりやすいものだ。

また、合気道の体をつくるだけではなく、技や動きの拍子(リズム)を身につけるのにも、剣の素振りが役に立つ。例えば、中段から相手の小手を打つ拍子は、体術で片手取り相半身二教の動きと同じである。拍子を取るには肩を陰陽に使うことが大事だが、木刀や鍛錬棒を使ってやる方が、素手よりも理を見つけやすいし、身に付けやすい。

杖の素振りから得られるものの典型的なものは、手と足が連動した動きである。武道の基本的な動きはナンバであるが、手と足が一緒に右、左と連動して動かなくてはならない。合気道でも手足が連動していないと技の効果は半減してしまうので、手足が連動して動くように稽古しなければならないのだが、体術ではなかなか難しい。杖での稽古は、これがわかりやすい。

この手足の連動が出来てくると、杖を持たなくとも、持ったと同じように連動して動けるようになる。この他、杖は刀に対応する武器であるから、刀で切られないよう常に杖を回転して使わなければならないので、手の回転の稽古になる。合気道の技で、受けの手は直線で動くことはほとんどなく、常に回転していると言える。合気道の動きは円であるといわれるのは、この手の回転も指しているのだろう。さらに、杖で打ったり突いたりしたら、即、その部分を陰に返し、それまでの陰の部分が陽にかわる、陰から陽、陽から陰の変換の体および気持ちの動きも稽古しやすい。つまり、武器を使うと、体術だけではなかなかその理が分からなかったり、出来ないことが身につきやすいのである。

合気道は「武道の基」であると開祖は言われていた。合気道の動きに武器をもてば、合気剣や合気杖にならなければならないとも言われていた。剣や杖が自分の体の一部になり、自分の手足のように使えるように修行せよということだろう。合気道を修行するなら、剣や杖もある程度、合気道流に使えるようにしなければならない。