【第502回】  効かせようとしては駄目

合気道は、技の形を通して技を身につけていく。相対で、取りと受けが交互に技をかけ、受けを取るのである。技の形を覚え、受けもある程度取れるようになると、だんだん相手に技をかけて倒したり、抑えられるようになってくる。

そして、受けの相手を倒したり、抑えることができれば、満足するようになる。しかし、逆に受けにがんばられたり、技が効かないと、冷静さを失って、力を込めて何とか受けを倒そうとするものだ。これは自分の経験でもあるし、後進を見ても同じような稽古をしているので分かることである。

一教や四方投げ等の合気道の技の形の稽古は相手を倒すことではない、といわれるが、初心者には難しいことであろう。合気道の形稽古は、受けの相手を倒すことでも、技を効かせることでもない。技をかけたら受けは倒れなければならないし、かけた技は効かなければならないが、それは目的ではなく、結果でなくてはならないのである。

結果が出るためには、プロセスが大事である。プロセスとは、やるべき事をきちんとやっていくことである。やるべき事とは、法則に則った体の動きと理合いで技をつかうことである。やるべきことをしっかりやれば、その結果として相手が倒れたり、技が効くわけである。

技を効かせようとして効かない典型的な形(技の形)は、諸手による「交差取二教」であると思う。技を効かせようとして、受けと対面した位置で持たれた手を振り回すようにつかうのだが、そのために効かないのである。特に、この形は多少力があったり力んだりしても、効くものではない。

この技を効かせるためには、やるべき事がたくさんある。おそらく無数にあるであろうが、その内の、自分がこれまで身につけたいくつかを書いてみることにする。

  1. まず、足である。相手が諸手でつかんでいるこちらの手と同じ側にある足に体重がかかっているから、この体重を反対側の足に移動し、また、もとの反対側の足に移動、さらにその反対の足に移動と、4回の重心移動が必要である。
    右半身で手を取らせた場合は、右足が陽、陰、陽、陰になる。つまり、足は右、左と、規則的に陰陽につかわなければならない。
  2. 次に、手である。手は刀として使わなければならない、と考える。すると、手先は刀の切っ先になるから、まず指先を開き、地に対して縦にする。この手の平を縦にした手をつかませ、重心が右から左の足に移動する際に、相手の腹を切るつもりで、その手の平を横につかう。重心が移動したら手の平を立て、そして右足に重心を移動しながら、また手の平を横にする。さらに重心を左足に移動しながら、手の平を立て、手刀で相手の手首を切り下ろし、己の腹と左足に相手と己の体重を集めるようにする。
    これは手を縦横の十字につかうという法則である。
    なお、十字につかう十字の法則は、特に最後に相手の手首を切り下ろす極めのところで有効であり、こちらの手と相手の手首が十字になっていなければ効かないものだ。
    また、腰も足先の向きに対して直角になるように、十字に使かわなければならない。この場合、腰は左と右と最低2回は十字にならなければならないはずである。
  3. 息づかいも大事である。息づかいがうまくいかないと、技は効かない。
    息づかいは、「イクムスビ」である。「イ」と息を出して手をつかませ、「ク」で息を入れ、そして「ム」で手刀で手首を切り下ろすのである。
  4. 支点を初め始めから動かさないことも大事である。注意しなければならないのは、「イ」で息を吐きながら手を取らせる時や、「ク」と息を入れて相手を導く時、相手の手首を切り下ろす時である。持たせた手を動かすのではなく、腰腹をつかって手を動かすのである。切り下ろす時は、相手がつかんでいるこちらの手の接点は動かさず、その接点を支点として、手刀でそこを包み込むように切り下すのである。
  5. この諸手による「交差取二教」で、他の形にくらべて特に大事なことは「拍子」であろう。初めから、極め・収めの最後まで、時間的また空間的な途切れがないことと、それらが螺旋にならなければ、相手を納得させるような技にならない。
    「拍子」をつくるためには、気持ち、息づかいなどが大事であるが、円の動きのめぐり合わせになるような円の動き、さらに、その円が螺旋で膨大なエネルギーを有する渦(うず)とならなければならない。
このような事をやっていけば、結果としてこの諸手による「交差取二教」が効くようになるはずである。また、他の形(技)でも、先述の事をプラスすれば効くようになるだろう。

効かせようとして技をかけては、駄目なのである。