【第43回】 はじめに合気

合気道の稽古は通常二人で組んでやる。ある形を一人が技をかけ、他方が受けて、そして相手を制する。攻撃の方法には手や体の各部を片手や両手や諸手で掴んだり、正面や横面を打ったりする。攻撃するということは本来は相手をやっつけることであるので、いくら争いでない合気道でも、相手と接するときはぶつかったり、弾き飛ばしたり、また、攻撃が弱ければ反対に受け側にやられてしまう。

人間は本能的に負けまい、やられまいとして硬くなったり、つっぱったり、はじき返したりしてしまう。ふたつの物体がそれぞれことなる意思で争うことになる。この状態で技をかけて相手を制しようとすれば、力ずくでやるほかはない。相手の嫌がるのをやるのだから、相手より大きな力を必要とすることになる。しかし、これは合気道ではない。

二人が一人になり、二つの物体が一つになれば、一人として自由になり、技も自由にかけられるはずである。相手がどんな攻撃をしてきても、相手と接したときに一つになられればいいわけである。相手が手を取りに来た場合、相手を制しようと手を振り回してしまいがちであるが、それでは相手とぶつかったり、相手の手を離してしまったりして相手と結ぶことはできず、技もきまらない。

相手と結ぶためには、相手の手が自分の手に触れた瞬間にくっ付け、ねばらせてしまわなければならない。つまり合気をかけてしまうのである。合気をかける手は突っ張ったり、力んだりしないことである。出した自分の手(腕)の重さを感じられるぐらい力を抜いた手でなければならない。しかし、気だけは充分通していなければならない。相手が力で押したり、引いたりしたら即反応し、重くなったり、くっ付かせたり、相手がなにかすれば自ら自滅させるようにしてしまうのである。合気をかけるための手でもうひとつ大事なこととして、肩を貫くことも必要である。(「合気道の体をつくる」第31回参照

相手が取りに来た手に合気がかかると、相手の足は地に張り付いてしまい、ちょっと動かしてやると、相手はたたらを踏むことになる。技は相手(の動き)が生きている間は、かけても掛からないものである。技は相手を合気して殺してからかけなければならない。諸手取りの二人がけで技をかけるときも、まず、二人の相手を地に張り付くよう合気してから技をかけなければならない。正面打ち一教でも、相手の打ってくる手にも合気をかけ、相手を殺してしまわなければならない。合気をかけなければ相手は自由に動けるので、技は効かないだけでなく、逆に返されてやられてしまうことにもなる。

どんな技をかけるのも、はじめが一番肝心である。はじめの合気がかからなければ、後はパワーでやらざるを得なくなるので合気道とは違ったものになる。 しかし、厳密にいうと、相手と接したときが技のはじめではなく、それ以前に始まっていなければならないことになる。つまり、相手と対したとき気結びをし、はじめていなければならない。