【第429回】 壁はレベルアップのスタート台

なんでも一生懸命にやっていれば、必ず壁にぶつかるものである。とりわけ習い事では、いくつもの壁にぶつかるだろう。合気道を稽古していても、薄い壁からどんどん厚い壁が、次から次へと立ちはだかるはずだ。はじめのうちは壁が薄くてもろいこともあって、無意識のうちに突破していくが、壁がだんだんと厚く堅牢になってくれば、頭を抱えて悩むことになろう。

壁とは問題であり、それを突破しないと先に進めない、解決しなければならない課題である。合気道の初心者の壁は、息があがってしまうとか、跳び受け身ができないとか、一教がうまくできないなど、個人的で、やれば必ずできるようになるような、容易に自分で打ち破れる壁である。

しかし、長年稽古を続けた高段者の前に立ちふさがる壁は、容易に打ち破るのが難しくなってくるものだ。それだけではなく、命取りになることもある。

高段者の壁は稽古人に共通のものであり、誰もがいつかは真剣に悩まなければならない課題である。この壁を突破しないと、次の次元に進めないし、突破できなければ、合気道をやめることにもなりかねないという壁である。

その典型的な壁は、力に頼った技づかいで、技が効かなくなることである。力が強く、体力・腕力のある相手、例えば、大きい外国人などには、技がかからなくなってくることがある。

この壁が目の前に立ちふさがると、先へ進めなくなる。がんばる相手を倒そうと力一杯やったり、体当たりでぶつかったり、いろいろやってみても効果がないことが分かってくる。やるだけやっても相手は倒れないので、自信をなくしたり、自暴自棄になり、また、稽古への情熱もなくなってくる。

だが、壁を乗り越えることができるとわかるだろうが、壁にぶつかったことには二つの意味がある。

一つには、ある段階までの進歩があった証しである、ということである。ある程度の実力がついたということであり、それまでの自分のやり方(稽古法)にもはや満足できなくなったということでもある。

初心者や実力が未熟な間は、そのような壁にはまだ到達できない。だから、その壁までたどり着いたのは大いなる進歩であるということであり、自分をほめるべきであろう。

二つ目は、壁は次の段階へ移るスタート台である、ということである。だから、このスタート台からスタートしなければ、次の段階へ進むレースを棄権することになってしまう。逃げることなく、正面突破しなければならない。

しかし、これは容易ではない。その理由は、これまでのやり方を変えなければならないわけだが、それまでとは180度違う、正反対で異質のやり方にならなければならないからである。

立ちはだかる壁は難攻不落で危険ではあるが、レベルアップのスタート台になるチャンスを提供してくれる面も持っている。何とか壁を突破して、次のレベルに行けるように、壁に感謝するようになりたいものである。